野尻抱介blog

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急降下爆撃と特攻を図上演習で比較してみた


特攻作戦を図上演習で再現してみた(空戦編)
特攻作戦を図上演習で再現してみた(突入編)
急降下爆撃と回避運動を図上演習で検討してみた
 のつづき。

 特攻は通常攻撃より大きな戦果を上げた、合理的な戦法であった、という評価をよく見かける。CaSでどうなるか確かめてみよう。
 零戦には爆撃仕様の62型があって、CaSの資料にも掲載されているが、簡単のため、特攻機のときと同じ条件、零戦52型(A6M5a)に250kg爆弾を積んだものとする。したがって往路の空中戦は特攻機と同じ結果になる。迎撃機の数が1:1だったとして、迎撃機からの逃走成功率はパイロットの練度が並で73%、新兵で48%だ。(2015/09/14 以前の記事の空戦判定にミスがあったので修整した)

 空母機動部隊の輪形陣、突入経路も特攻のときと同じだが、通常攻撃の場合は目標上空を航過して離脱しなければならない。図のように輪形陣を横断する形になるので、ほぼ全艦が防空射撃に参加できてしまう。プロットから見当をつけてみると、除外は駆逐艦一隻だけだ。急降下爆撃機は高空からアプローチするので、他の艦が対空射撃の射界を遮るケースは無視できる。

・基本値
 急降下爆撃機      領域AA攻撃力 34.2 軽AA攻撃力 110.6
 (比較) 急降下する特攻機 領域AA攻撃力 22.5 軽AA攻撃力 73.5


・急降下爆撃機でVT信管なし
 領域AA     軽AA
 補正値 0.1875 補正値 0.1875
 攻撃力 6.4   攻撃力 20.7
 撃墜数 1, 3, 4  撃墜数 2, 7, 10  期待撃墜数 10 (投弾前の撃墜数 7)

・急降下爆撃機でVT信管あり
 
領域AA     軽AA
 補正値 0.375  補正値 0.1875
 攻撃力 12.8   攻撃力 20.7
 撃墜数 1, 5, 7  撃墜数 2, 7, 10  期待撃墜数 12 (投弾前の撃墜数 9)

 「投弾前の撃墜数」の意味は、こういうことだ。軽AAによる撃墜は相手側の攻撃と同時判定(刺し違え)なので、撃墜された飛行機も爆弾や魚雷を投下できる。飛行機は投弾後に墜落するとみなすわけだ。
 これには議論があったらしく、オプション・ルールとして軽AAに口径35mm以上の火器を含む場合は有効射程が長いので、命中機の半分(端数切り上げ)を爆弾や魚雷の投下前に取り除く。突入編の引用部分で軽AAに大小があるというのはこれを指している。
 このオプションはシミュレーションの精度を上げるためにあるので、使用しよう。アメリカ艦は40mmボフォースを持っているので、このルールが適用される。
 VT信管なしの場合だと、領域AAで3機、軽AAで7機、合計10機に命中する。投弾前に墜落するのは領域AAの3機および軽AAの4機(7機の半分、端数切り上げ)で、合計7機になる。投弾後に残り3機が墜落する。

 システム上、CaSでは対空火器を領域AAと軽AAに二分しているが、実際には領域AA、軽AA大、軽AA小があったいうことだ。具体的にはアメリカ艦だと5インチ対空砲、40mmボフォース、20mmエリコン機銃がこの三種に該当する。
 日本艦の対空火器は10cm前後の高角砲(領域AA)と25mm対空機銃(軽AA小)なので、軽AA大がない。したがって軽AAが当たっても爆弾を投下されてしまう。これには異論もあるようだが、ともかくCaSのルールをあてはめるとそうなる。

 急降下爆撃機の投弾前の損失はVT信管の有無を平均して8機としよう。特攻機の場合も8機だった。
 爆撃の命中率はというと、特攻機のときと同様の補正を加えるが、プレスホーム(肉薄攻撃)はしないものとする。
 結果、命中率はパイロットが「並」なら12%、「新兵」なら8%となった。
 特攻機の場合、パイロットが「並」なら26%、「新兵」なら22%だったから、急降下爆撃の命中率は半分以下になる。

 爆弾1発命中の期待値を得るには、8機(13機)が投弾にこぎつけなければならない。以下、括弧内はパイロットが「新兵」のときを示す。
 対空射撃での投弾前の損失8機を加えると、16機(21機)。
 迎撃機とのドッグファイト(彼我の機数は1:1とする。迎撃からの逃走成功率は75%(49%))の損失を考えると、パイロットが「並」で21機、「新兵」で43機を投入しなければ、命中弾1発が得られない。

 特攻機とちがい、通常作戦機はこれから長い復路がある。
 アメリカの輪形陣から生きて離脱できるのは、投弾後に墜落する3機を引いて5機(10機)となる。それらに対してアメリカ機による追撃がありそうだ。
 追撃機が何機あったか、資料がなくてわからないので、適当に決めることにしよう。
 往路では日本側と等しい迎撃機を想定した。レーダー等で編隊の規模を見積もり、同数を迎撃に出した、という構図だ。これらの迎撃機が全機残っていると考えてみよう。この想定では、日本機5機(10機)が追撃機21機(43機)とドッグファイトして逃げ延びなければならない。
 アメリカ側がずいぶん多い気がするが、追撃機は減るどころか増える可能性もある。沖縄戦シナリオではCAP機(戦闘空中哨戒機)はあちこちから15分おきに補充される、という特別ルールがある。
 そんなわけで、とりあえずこの設定で進めてみよう。絶望的な気がしたが、次に述べる理由で実は日本側がかなり有利である。
 追撃機が零戦に均等配分されると仮定すると、パイロットが「並」「新兵」いずれも1:4の戦いになる。(端数は無視)
 おさらいすると、ドッグファイトにおいて先手を取るのは(1) 機動レーティングの高いほう (2)機動レーティングが互角なら最大速度の大きいほう、というルールだ。
 復路の零戦は爆弾を投下して身軽なので、F6Fヘルキャットと機動レーティングは互角だ。ただし速度で負けているので、まともに空戦するとヘルキャットが先手を取る。だが、零戦が戦わずに逃走に専念するなら機動レーティングに+0.5の補正がつくので、零戦が先手を取れる。
 零戦ヘルキャットの一機を選び、逃走判定に成功したら、ドッグファイト空域を離脱したことになり、ルール上それ以上追撃されない。ヘルキャットが何機いても、最初の逃走判定に勝てば逃げられる。逃走に失敗するとヘルキャット4機から順繰りに攻撃を受けるのだが、ここでも機動レーティングの優位が効いて簡単には撃墜されない。

 (1) 零戦1がヘルキャット1に対して逃走判定する。成功率は50%(30%)。
   逃走に成功すれば、零戦1は生還したとみなす。
 (2) ヘルキャット1が零戦1を攻撃する。成功率は10%(18%)
   攻撃が成功すれば、零戦1は撃墜される。
 (3) ヘルキャット2が零戦1を攻撃する。成功率は10%(18%)
   攻撃が成功すれば、零戦1は撃墜される。
 (4) ヘルキャット3が零戦1を攻撃する。成功率は10%(18%)
   攻撃が成功すれば、零戦1は撃墜される。
 (5) ヘルキャット4が零戦1を攻撃する。成功率は10%(18%)
   攻撃が成功すれば、零戦1は撃墜される。

 これで1ラウンド(1分間)が終わる。3ラウンドごとにD6して1か2ならドッグファイトは終了する。9ラウンドが経過するとドッグファイトは自動的に終了する。ここでは6ラウンドで終了とする。
 この空戦を生き延びたら、基地までは無事に飛行し、生還できたとみなす。
 復路の逃走成功率は91%(72%)、生還機は5機(7機)となった。
 追撃はまあまあ振り切れたわけだが、出撃したのは21機(43機)だからトータルの生還率は24%(16%)となる。
 欧州戦線でB-17によるドイツ本土爆撃は悪いときで生還率90%程度だったと聞く。それに較べるとかなり悪い数字だ。
 生還したパイロットはいくらか練度を上げるとしよう。特攻が批判されるのは、まさにここがポイントだ。生還したパイロットは次の出撃に参加し、1/4(1/6)程度に減る。出撃ごとのスキル上昇がいくらになるか、根拠になるデータがないので、なんともいえないのだが、パイロットが育つ環境と言うにはかなり厳しい気がする。
 通常攻撃しようが特攻しようが、飛行機とパイロットの命は浪費される。先の記事と比較してみると、1回の攻撃成功に対する浪費の度合いは特攻のほうが少ない。
 撃墜された機のパイロットが全員死亡したとして、1回の攻撃成功に必要な命の数は、
 急降下爆撃機 16人(36人)
 特攻機    16人(27人)
 となる。練度が並なら互角だが、練度が落ちてくると特攻機のほうがパイロットの倹約になる。とはいえ特攻を使うと練度は落ちる一方なので、やはり悪循環である。
 墜落したパイロットを救助できれば、状況はかなり改善されそうなのだが、沖縄戦の状況では難しいだろうか。

 最後に、急降下爆撃で250kg爆弾が命中した場合のダメージを考えてみよう。

 250kg爆弾の付与DP(ダメージポイント)は35。目標の空母ホーネット(エセックス級)は625DPを持つ。
 今回の攻撃はつまり、625 - 35 = 590
 ホーネットは減速せず、そのまま航行を続ける。
 次にクリティカル・ヒットの発生を判定する。偶然に左右されるので、以下は一例である。
 損害比 35 / (625 - 35) は0.06。損害比表からD6で6なら1回のクリティカル・ヒットが発生する。ダイスは5で、発生なし。
 これでおしまいかというとそうではなく、「空母に50kg以上の爆弾が命中した場合は飛行甲板にクリティカルヒットが発生する」というルールが適用される。

・飛行甲板へのクリティカルヒット
 D6して1-2なら前部、3-4なら中央部、5-6なら後部に命中する。前部に命中した場合、航空機の発艦が不可能になる。後部に命中した場合、着艦が不可能になる。
 航空機を駐機した領域(発艦時なら後部、着艦時なら前部)に命中した場合、D6=命中機数とし、各機を航空機クリティカルヒットとして扱う。
 飛行甲板へのダメージは格納庫へのダメージを引き起こしうる。飛行甲板が装甲されていれば、装甲貫通型爆弾のみが格納庫へのダメージを加えうる。もし貫通可能な爆弾ならD10で1-5なら格納庫へのダメージなし、6-10なら格納庫内の航空機に命中する。その場合、D6=命中機数とし、各機を航空機クリティカルヒットとして扱う。

 このとき飛行甲板のどこに駐機されていたかはランダムに決定しよう。D6して奇数なら前、偶数なら後ろ…6で前。
 着弾地点はD6で…5。後部。ホーネットは着艦が不可能になった。飛行甲板上の飛行機にはダメージが及ばなかった。
 次は装甲貫通の判定だ。急降下爆撃機によって低空から投下された250kg爆弾の装甲貫通値は12cm、ホーネットの甲板装甲は6cm相当なので「貫通」が成立する。特攻機の場合は貫通できなかったので、この点では効果が大きい。
 格納庫へのダメージはD10で…9。格納庫内の航空機に命中した。命中機数はD6で…2。
 航空機クリティカルヒットが2回発生した。状況はどんどん連鎖してゆく。

・航空機へのクリティカルヒット
 搭載されている航空機が破壊される。それはまた、火災の元となる。火災の重大性を D6-2% で決定する。結果が1以下なら火災は発生しない。

 航空機1…D6で4。重大性2%の火災発生
 航空機2…D6で2。火災発生せず。

 3戦術ターン、つまり9分後、火災の延焼と鎮圧について判定する。D10とD6、二度のダイスロールを行なって判定する。結果は延焼して重大性が3%になった。ホーネットは初期ダメージポイントの3%、18DPを失い、572DPとなった。航行速度は変わらない。艦これでいうなら、小破未満のカスダメ状態だ。
 以後の判定は30分おきに行なう。30分後、ホーネットは火災の鎮圧に成功した。
 さらに延焼が続くようなら、戦闘部署の人員をダメコンにまわしたり、近くの艦船に消火を手伝わせるなどの対処方法がある。しかしときには、火災が手に負えない状態になって戦域を離脱する展開もあるだろう。

 結論として、急降下爆撃は特攻よりやや大きなダメージが期待できる。しかし飛行機およびパイロットの損耗と差し引きすると、どっちもどっちである。特攻でなければならない、といえるだけの理由は見つけられなかった。
 今回の設定では戦力を小出しにすると各個撃破されてしまう。そこで20機~40機まとめて出すことになるが、当時の日本軍がこれを繰り返すのは難しかったと思う。

 重ねて強調するが、これは状況を単純化し、CaSのルールに従った試算にすぎない。
 実際の戦闘では、日本軍もそれなりに工夫していたようだ。先にレーダーピケット艦を叩く、囮や直掩機を出して迎撃戦力を分散させる、輪形陣内でも複数機がアプローチや目標を変えるなどして対空射撃を分散させる、等々。左は『真相・カミカゼ特攻』(原 勝洋)に掲載されていた米軍側の資料だ。

 また、今回の試算では雲量ゼロを想定している。戦史をひもとくと「雲の中から突然特攻機が現れ、突入してきた」「雲に逃げ込まれて見失った」という記述をときどき見かける。ドッグファイトからの逃走判定でも雲が存在すると大きな補正が入る。ただし、レーダー射撃管制の対空砲火は影響しない。
 雲があると日本側に有利に作用するので、全体の成績はやや向上するはずだ。