野尻抱介blog

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ジャパリ馬車が運んだ小さな奇跡 ――超乗合馬車2017レポート

 ニコニコ超会議2017で超乗合馬車を運用したときのレポートである。

●超乗合馬車とは何か
 ニコニコ超会議会場において、人力で牽引する、山車のようなものだ。引き手は2~4人、乗客は6人前後。山車部分は軽自動車ぐらいの大きさ。引き手は馬のかぶりものを頭に乗せるので「馬」と呼ばれている。
 馬車の前部には「御者」が乗り、ステアリングとブレーキを操作する。
 馬車は会場内の通路上、一周10分くらいのコースを周回する。コース上に一箇所、停車場がある。ここで乗客や馬の受付と乗り降りをおこなう。

 馬車は無動力の台車みたいなものだが、内輪差を極限し、小回りがきくようにサーボステアリング装置がついている。演出サービスとしてパワーアンプ、ミキサー、エフェクター、電光掲示板、AC100V電源を搭載している。乗客はこれらを使って、歌ったり演奏したり、メッセージを声と文字で出したりできる。
 車体は鋼管を溶接して作られ、複合材でカバーされている。車輪部分は廃車から外してきたものを転用している。電光掲示板もステアリング用サーボも、すべてニコニコ技術部員の手作りだ。

●超乗合馬車の使い方
 馬車は予約もできるが、当日、停車場に来てスタッフに申し出れば、たいてい20分以内に乗れる。無料である。
 一周ごとに馬と乗客を入れ替える。超会議の二日間、終日運行する。VIPが来訪したり、通路が混雑するときは一時運休することもある。
 乗客になれるのは超会議の来場者すべてだ。ただし単なる遊覧で乗せることは少ない。コスプレイヤーパフォーマーなど、周囲にアピールする要素のある人を優先している。
 例外として、車椅子の方や幼児を連れた方には優先的に遊覧搭乗してもらっている。

 馬役は誰でも参加できる。馬車が通りかかると、最初に受けるのは馬だ。それが楽しいので馬役のリピーターもいる。
 来場者の多くは馬車の利用方法を知らないので、こちらから通路にいる人をスカウトして、乗客や馬役になってもらうこともしている。スタッフのあずさんはスカウトと采配の達人で、あっというまにメンバーを揃えてしまう。私がスカウトすると、怖がって避けられてしまうことが多い。
 確実かつ計画的に馬車を利用したい人は、野尻 nojirihs(あっと)gmail.com までメールで連絡されたい。


●馬車運用の心得
 馬車のスタッフも乗客も、ともに心得てほしいこと。

(1)安全第一。人が歩く速度で通路を動くだけなので危険は少ないが、将棋倒しなど、群衆事故を引き起こさないように細心の注意を払う。群衆事故は、誰かが悲鳴をあげるだけでも発生しうる。馬車の周囲は運営側スタッフも加わって交通整理をしている。
(2)ギブ&テイク。混雑する通路をそれなりの面積で占有するので、「通行の邪魔になることと引き換えのなにか」を提供するよう心がける。つまり周囲を楽しませることを意識する。
 もちろんニコニコの文化だから、完璧をめざす必要はない。馬車に乗ったら、愛想良く手を振ろう、ぐらいのことだ。

●超乗合馬車の歴史
 馬車のデビューは2013年の超会議2からだ。当初の目的は、超会議におけるニコニコ技術部の作品展示のひとつで、馬車そのものが作品だった。さらに馬車を使ってほかの技術部作品を展示することも目的だった。
 発端となったアイデアニコニコ技術部IRCで出た「遊園地のミニ列車みたいなのを周回させたいね」であった。停車場をコースの両端に置いて、旅客輸送する構想もあった。
 実際には停車場が一箇所だけのクルーズ形式になり、主に移動ステージとして使われている。

●超会議2017での馬車
 ご覧の通り、車体をけものフレンズのジャパリバス風に改装している。通称として「ジャパリ馬車」とも呼んでいる。
 ばらばらに動いていた人たちが、けものフレンズを軸にしてさまざまな現象を生成し、それが超会議の場でシナジーを励起する、という小さな奇跡を久しぶりに味わった。以下に説明しよう。

・現象その1 2017年2月24日、野尻はTwitterでそそのかされ、馬車をジャパリバス風に改装することにした。当時は最終回も未放映で、それが不評だったらジャパリ馬車もネタとして滑るので不安だった。
 しかし自分の中では、もうすっかりけもフレファンだったので、やるしかないと思った。スプレーガンとコンプレッサーを買い込み、庭でがんばって塗装した。


・現象その2 2017年4月25日、akira_you氏が1/1巨大セルリアンを作り、動画を発表、たちまち7万再生に至った。彼は超会議に参加しなかったが、動画についた「超会議に来て」というコメントを読んで、私の家に一式送りつけてきた。馬車をトラックに積んで幕張メッセに向かう前日のことである。中身を確認する時間も場所もなかった。


 この巨大な風船みたいなものを馬車に乗せて練り歩けという難題である。私も保持用のポールなどを用意していったが、当日までどんなものかわからず、ダメモトだった。
 容積は約30立方メートルと聞いた。空気だけで40kgぐらいの質量になる。周囲が空気だから重さは感じないが、慣性は残っているから、動き出すと止まらない。止めようとして引っ張ると破れる。まったく御しがたいオブジェだった。
 結局、これを会場内で展示することは運営からNOが出た。私も群衆事故の危険を感じたので、展示は断念した。


・現象その3 展示をあきらめた巨大セルリアンだったが、運営の中野さん、メガネさん、徳竹さんらが、「中曽根オフになら出せますよ」とはからってくれた。中曽根オフというのは初日、入場待機中におこなうパレードだ。
「これ絶対面白いから、出しましょうよ」と、運営側から言ってくれたのは胸熱だった。
 胸熱ではあったが、私はさらなる難題に直面することになった。屋外でこれを移動展示するのは想定外だ。風が吹いたらどうなるか。セルリアンの形を保つには、扇風機で送風し続けなければならない。しかしそこは技術部、馬車用の可搬電源を台車に乗せるなどして、なんとかなった。
 当日、セルリアンは日照で内部の温度が上昇し、じわじわと浮揚し始めた。幸いほぼ無風で、幕張の空を漂流して航空障害物と化すような事態は起きなかった。
 パレードは最高に楽しかった。つるの剛士氏のツイートで動画が見られる。





 パレードの最後で巨大セルリアンは野生解放したフレンズたちに倒された。めでたしめでたし。

・現象その4 ハギレの錬金術師氏が1/1ラッキービーストのぬいぐるみを作り、馬車で使ってください、と超会議の設営日に持ってきてくれた。プロの超絶技巧で作られた、素晴らしいものだった。


 作者のTwitter

・現象その5 あきにゃん氏が酔った勢いで、けもフレキャラをかたどったユニバーサル基板を作り、NT京都で頒布した。彼をスタッフに迎え、馬車乗車記念ノベルティとしてさらに800枚量産して配布した。



 基板を使った作品も投稿されている。


BlueTone氏の作品

・現象その6 アニメ『けものフレンズ』をクリエイトしたirodoriの三人が馬車発着場に降臨した。
 写真の左から野尻、たつき、ゆっこ、白銀(敬称略)。
 乗車をすすめたが、たつき監督は固辞され、顔もラッキービーストぬいぐるみで隠しておられた。
 監督には事前にTwitterでお招きしたのだが、返事がなく、突然の来訪であった。



・現象その7 超会議の二日間、馬車は多数のフレンズ(けもフレコスプレイヤー)を運んだ。1/1ラッキービーストがひっぱりだこになった。馬車スタッフ、あず氏のはからいで、けもフレコスの人にはこのぬいぐるみを小道具として勧めていた。
 もちろん、けもフレ以外のコスプレイヤーパフォーマーもたくさんいた。実にさまざまな人が馬車に乗ってくれた。
 以下に二日間の写真をピックアップして貼っておく。適当に並べるが、テーマは馬車を引く人、馬車に乗る人、馬車を見る人、に分類できる。




































 当日のツイート、動画が以下にまとめられている。

超乗合馬車2017 1日目まとめ

超乗合馬車2017 2日目まとめ

 馬車にまつわるさまざまな「絵」を見れば、ニコニコ超会議という場の精髄が浮かび上がるだろう。基本的に無計画ながら、人それぞれに期するものがあってコスチュームや装置を用意してくる。それらがひとつの場に集まり、ある偶然のもとで瞬発力を発揮する。これらの絵は、その輝きを捉えたものだ。どの絵にも、小さな奇跡が宿っている。

 結局、馬車は初日29便、二日目28便運行し、無事故、無故障のうちに600人あまりが参加した(馬役含む)。馬車担当になった運営スタッフはかなりの肉体労働だったと思うが、よく働いてくださった。改めて感謝したい。




 超会議の二日間、私は馬車にかかりきりで、他の企画はほとんど見ていない。沿道に見えた企画では、歌ってみた・踊ってみた・演奏してみたがいずれも楽しそうで、特に踊ってみたのレッスンシーンには毎年感動してしまう。大勢が真摯に体を動かしている姿は、それだけで立派なコンテンツだと思う。いろいろと批判や失敗もあるニコニコだが、私はこの文化が好きだ。これを好きになるには、自分から能動的に参加してみることだろう。

・関連記事など

動けー! ニコ超会場内をジャパリ“馬車”が疾走中、動力は人力 - ねとらぼ

TOPGUN_Akiのブロマガ/超会議2017で、ジャパリ馬車(超乗合馬車)を曳いてみた

・ 同氏‏ @TOPGUN_Aki のツイートから。
  超会議ね、最初のころ「どうせ歌い手、踊り手とかパフォーマー優遇で技術部系はたいして注目さない」って思ってたから、参加も考えなかったんだよね。でも超乗合馬車やって思ったのは「技術部でもヒーローになれる」「裏方のステージ役でも注目される」そういうところだったんだよね。やってよかった。
 そういう、普段は裏方の人間が見かたと切り口を変えるとヒーローになれる、というのがまさに「ニコニコ技術部」だったわけで、ニコニコ超会議でもその機能はしっかり果たしていたわけだったんだ。
  ニコニコ超会議、「パフォーマーばっかり目立って参加する意義がない」と思ってて今まで参加しなかった自分をはじめて恥ずかしいと思ったし、行ってみたら「オフパコ超会議乙w」とか言ってる人は本当に酸っぱい葡萄だなー、って思っちゃった。結局行ってみてよかったよ!
  あと、超会議で感じたのは「承認欲求」の正当性だね。なんか「チヤホヤされたい」と言うとすごく承認欲求が悪いことに聞こえるけど、実際そうやって観てもらってうれしいし、観てる人間も楽しい、っていうのだと、誰も損しない。超乗合馬車でノリノリでパフォーマンスしてる人を見てそう思ったよ。

【追記あり】「ニコニコ超会議2017」閉幕 ネット来場50万人減少、2018も決定 - KAI-YOU.net

あずマガ大王 ジャパリ馬車こと超乗合馬車2017写真集 一日目

あずマガ大王 ジャパリ馬車こと超乗合馬車2017写真集 二日目

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