野尻抱介blog

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艦これ民が太平洋フェリーに乗ると…


 タイトルはちょっと釣りっぽいかもしれない。私はHarpoon4という現代海戦SLGをやっていて、海戦全般に興味を持っている。艦これにもしっかりハマり、非力な駆逐艦隊を日々演習でしごいている。だから本物の船に乗ると、「ここで海戦をしたらどんな感じだろう?」と考えるわけだった。
 前の記事にある福島への旅で、往復太平洋フェリーに乗って名古屋~仙台間を移動した。そのときの様子を語ろう。

 仙台港で出港を待つ太平洋フェリー「きそ」。全長199.9m、総トン数15795トン、最大速力26.7ノット、航海速力23.2ノット。寸法的には重巡妙高が近いだろうか。妙高の基準排水量は改装後で13000トンだが、総トン数は積載容積を示す単位だから簡単には比較できない。

 上甲板、船尾側からの眺め。鎮守府の窓の外の風景に似ている。埠頭につきものの大型クレーンは戦前からこんなのが多いようだ。

 仙台港の隠れた名物だそうだが、カモメがなついているので、デッキから餌を投げるひとが必ずいる。「野生生物の餌付けはしないほうがよい」と狩猟免許の試験問題にあったが、禁止というわけでもないので、私もかっぱえびせんを用意してカモメとたわむれた。餌を差し出すだけで天空の城ラピュタのシータみたいなことになる。

 嘴の先から唾液がこぼれている様子が撮れている。それで指が濡れるのだが、嫌なら餌を投げてもいい。空中でキャッチしようとするカモメたちのドッグファイトが見られる。

 仙台港を出たあとも、カモメたちはしばらくついてきた。
 ……まあ、このトピックは海戦と関係ないのだが、いい写真が撮れたし、空母に着艦する艦載機に見えなくもない。

 出航後2時間ぐらいたつと、太平洋フェリーの姉妹船とすれちがう。脳内では反航戦、合戦準備!と号令がかかったが、たがいに汽笛を鳴らして挨拶し、あっという間に遠ざかった。
 このときの速度はそれぞれ21ノットぐらいなので、相対的には42ノット(≒時速78km)で動いている。これは駆逐艦島風」が公試で出した速度と同じぐらいだ。実際に見れば、その高速が実感できるだろう。

 15時40分頃、福島第1原発の横を通過した。1号炉の建屋がカバーで覆われているのがよく見える。
 2011年9月にここを通った時は30kmほど沖を通ったのだが、そのときよりずいぶん近いようだ。不謹慎なことだが、脳内では原発に向けて艦砲射撃が始まっている。そのためには、まず測距しなくてはならない。

 そこで原発までの距離を、ランニング・フィックスという方法で測ってみた。キーホルダーにしているコンパスの分度器部分と照準ミラーを使って、原発が前方45度~真横に見るまでの時間を測る。その時間に船が進んだ距離は原発が真横に来たときの距離に等しい。二つの照準線が直角二等辺三角形を描くからだ。45度を使うのは計算が楽だからで、別の角度で測ってもよい。
 経過時間は15分、船の速度は21ノットとすると、フェリーは原発沖10km弱を通過したようだ。高濃度汚染水の漏出事故が起きたばかりだが、空気中や海水への放出はないものと判断したのだろう。

 16時頃、左舷にフェリーさんふらわあが並航しているのに気がついた。左の写真は、6~7倍の双眼鏡で見た感じとほぼ同じだ。
 さっそく脳内でさんふらわあと砲雷撃戦を始めるわけだが、これも測距が必要だ。この場合は相手も動いているのでランニングフィックスは使えない。ブリッジに行って航海レーダーを見せてもらいたいところだが、それもできないので、カメラの画角と目標の大きさから計算しよう。
 これは帰宅後に調べたのだが、このときのフェリーは商船三井さんふらわあ「しれとこ」で、全長は190m。重巡クラスだ。画像の測定から船首~船尾までの見かけ角度は0.67度。よって190÷TAN(0.67)≒16kmとみた。妙高の20センチ砲の最大射程は26kmだそうだが、有効射程はどれくらいだろう? 
 Harpoon4の第二次大戦版、Command at Sea(CaS) のデータ集に日本軍20センチ砲のスペックが載っていた。砲戦距離16kmは「中距離」扱いだ。相手サイズはBクラス、見え方はブロード(真横)、海況2、視程良好、相手の運動は静止――等々加味すると命中率は41%となった。CaSのルールはまだしっかり読んでないので、もっと補正が加わるかもしれない。

 18時前、大洗に入港するため、さんふらわあは右舷側にまわった。このときの距離は推定14km。スペック上は93式酸素魚雷の届く距離だが、実戦では10km以内で使えと指示されたそうだ。昼間では丸見えになる距離だが、日没も近いから、ここは夜戦で雷撃を試みよう。艦これもそうだが、WW2の頃は昼戦と夜戦で戦い方がずいぶんちがう。
 魚雷の速度を41ノットとして、この距離を渡るには11分かかる。しかし目標は21ノットで動いているから、魚雷は斜め前方に撃つことになる。計算してみると発射角は右舷59度、魚雷の航走距離は16kmぐらい、航走時間は13分ぐらいとなったが合ってるかな?

 太平洋フェリーですごす夜は素晴らしい。無料のラウンジショーを楽しんだあと、皆が寝静まった頃にデッキにでると、降るような星空だった。いい写真がないのだが、犬吠埼や野島崎の灯台を見たり、伊豆諸島の島影が横切ると、気分は鉄底海峡である。

 夜が明けると船は伊勢湾の入口、伊良湖水道にさしかかった。通行量が多いので船は一列になってブイの間を進む。
 前にいるタンカーを見て、脳内で駆逐艦による船団護衛任務が始まったことはいうまでもない。水上監視を厳とし、潜水艦を発見したらただちに撃破するのだ!

 危険水域を無事通過すると、名古屋鎮守府が近づいてくる。
 紅白の煙突がたくさん見えるのだが、これはもう、どう見てもぜかましちゃんである。他の何に見えるというのだ。