野尻抱介blog

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特攻作戦を図上演習で再現してみた(突入編)

特攻作戦を図上演習で再現してみた(空戦編)のつづき。

 迎撃機との戦闘を生き延びた特攻機は、その直後~30分以内に目標に到達し、散華することになる。ここで待ちかまえている最後のバリアーは米空母機動部隊の対空砲火で、まことに熾烈だったといわれる。現代の海戦ならシースパローの迎撃を生き延びた対艦ミサイルが、主砲やCIWS弾幕にさらされる場面だ。

 今回想定している沖縄戦がどんな陣形だったのか、ぐぐっても見つけられなかった。
 大内建二『防空艦』にマリアナ沖海戦のときの輪形陣が載っていたので、これを参考に、運動盤にプロットしてみた。半径1800ydの円形に14隻の駆逐艦が取り巻いている。中央に空母4隻(うち軽空母2隻)、それらの間にボルチモア重巡3隻、アトランタ級防空軽巡2隻がいる。駆逐艦を除く各艦のシルエットは全体のスケールに合わせてある。衝突が心配なほど密集しているが、回避運動はしていたらしい。艦相互のコミュニケーションが優れていたのだろうか。空母はマリアナ沖では4隻だったが沖縄では3隻になった、という記事もどこかで読んだ。

 おりしも日米空母の特集を組んでいた『NAVY YARD』2015年夏号によると、RP艦(レーダー・ピケット艦)まで含めた防空陣形をビッグ・ブルー・ブランケットと呼ぶとわかった。空母を中心に巡洋艦の内円、駆逐艦の外円、遠方のRP艦、という三重構造をなすことは確かなようだ。個艦の対空装備も死角がない。

 CaSの対空砲火は領域AA(Area Anti-Air)と軽AA(Light Anti-Air)に分類される。AA火力に関する考察は、ルールブックのコラムが面白いので、引用して説明に代えよう。

 コラム 対空砲のモデル

 接近する飛行機に命中させ撃墜するには多くの要因があるが、支配的なのは弾幕の濃さだ。架台、照準、測距方法なども影響するが、目標に向けられる弾の量に較べれば小さい。
 CaSでの対空砲火は抽象化され、統計的に判定される。
 まず、対空兵器は領域AAと軽AAにグループ分けされる。領域AAは時限もしくは近接信管を持ち、艦隊をまとめて防衛する。軽AAは艦のごく近距離に来た航空機しか攻撃できず、相手を破壊するには弾を目標に直接当てなければならない。軽AAは分析によればさらに大型(31mm~65mm)と小型(30mm以下の機関銃)に分類できる。

 艦載の領域AAは一般に軽AAより効果が薄い。それらは数が少なく、発砲レートがとても遅い。射程の長さと破壊力で埋め合わせるほどではなかった。とはいえ、それらは有用だった。時限信管の1発は軽AAの弾の40~50倍の領域をカバーし、さらに射程もぐんと長いからだ。VT信管(レーダー近接信管)が導入されてからは、さらに有用になった。アメリカの5インチ砲にVT信管が導入されると、効果は基本的に2倍になる。さらにレーダー射撃管制とセットにすると、連合軍の対空火力は圧倒的になった。
 ほとんどの単発機は300kt前後で攻撃してくる。これは領域AAの射程内に30秒曝されることを意味する。大型の軽AAも30秒、小型の軽AAはその半分にすぎない。
 我々はこの露出時間のうちに、それぞれの銃砲が何発発射できるかを計算した。目標機が射程内に入ってからそこを出るまでに、妥当な発射数を見積もるという理論である。
 次に我々は限られた情報をもとに一般的な単発のPks(撃墜率)を算出した。発射数と破壊力から各火器の効果が見積もれる。
 すべての銃は、大戦中最も有効な対空兵器だった4連装40mm機銃と比較された。たとえば英国の単装Mk9_4.7インチ45口径は7.1基で4連装40mm機銃1基に等しくなる。これはこの英国の砲が持つ大きな破壊力を考慮してのことである。日本の3連装96式25mm60口径機銃は2.7基、銃身の数にすると8.1本で4連装40mm1基に等しくなる。
 "4連装40mm"を1とした各艦の対空攻撃力は、その艦に搭載されているすべての領域・軽AA火器を合計したものである。AA攻撃力と2D6ロールの交差照合で、3分間の戦術ターンに何機撃墜したかがわかる。このダイス判定が示すのは、そのターンにおける艦全体の対空火力の効率である。
 プレイヤーは資料C4にあるAA攻撃力の欄から、ゲームにないAA火力を算出したり、異なるAAを装備できる。その火器のバレル数を合計してAA攻撃力に掛ければよい。結果は4連装40mm機銃砲台いくつぶんかになる。もし複数種類の領域・軽AA火器があるなら、それぞれの値を出して合計して一個の値にする。


U.S. ボフォース 4連装Mk2 40mm/60

 
 さて、特攻機に対する対空射撃を判定するわけだが、そのためには関与する艦の領域AAおよび軽AAの攻撃力を合計しなければならない。これが実にめんどくさかった。私はめんどくさいことをこつこつ片付けるのが好きな性分だから、苦ではないのだが。
 まず、輪形陣の中から、射撃に参加する艦を選ばなければならない。
 軽AAの有効射程は一律2000ydとされている。この圏内に敵機が入ると軽AAの攻撃ができる。先に示した輪形陣は直径4000yd近くあるから、軽AAでの攻撃に参加できる艦は限定されてくる。輪形陣のプロットで、東北東から空母ホーネットに向かう線が特攻機の飛行経路だが、この線から2000yd以内の艦を軽AAに参加させた。
 「射線の制限」というルールもある。この場合、空母ヨークタウンと防空軽巡オークランドは友軍艦と特攻機が±10°以内に入るので射撃できない。ただし、目標が高度2000~3000mから急降下してくる場合はこの2隻も領域AAのみ使えることにする。
 さらに各砲の射界を考慮しなければならない。サイズクラスB(巡洋艦)以上の艦はAAがおおむね舷側についているので、目標に面した片舷ぶんしか参加できない。その場合、AA攻撃力は半分になる。
 サイズクラスB以上はざっくり半分、というのは簡略化のためのルールで、射界は実物かプラモデルで確認したいところだ。用意がないのでネットから図面を拾ってきて見積もった。
 
左はボルチモア重巡。センターライン上にあるのは主砲ばかりで、二連装の領域AA砲台は前後の2基を除いて左右に振り分けられているのがわかる。ルールどおり、本艦の領域AAは軽AAと同様に半減するとみなした。


左はアトランタ級防空軽巡。主砲に見える砲台は領域AAで、すべてセンターライン上にある。サイズクラスはBだが、本艦については領域AAは射界制限なし、軽AAのみ半減とした。

 結局、防空射撃に参加した艦はフレッチャー級駆逐艦6、アトランタ級防空軽巡2、ボルチモア重巡3、インディペンデンス級軽空母2、エセックス級空母1(目標艦)となった。
 領域AAの合計は15.8(急降下機に対しては先述の2隻を加えるので22.5)、軽AAの合計は73.5となった。
 射程・射界の制限を無視して全艦の合計はというと、領域AAが44.1、軽AAが179.0、合計223.1。4連装40mmボフォース砲台が223基あるのと等価となる。
 この結果は、特攻機の進入経路や、各艦の姿勢変化によって変わってくる。しかし、ある艦が圏外になれば別の艦が圏内に来るだろうし、個々の艦では左舷の射界から外れたら右舷の砲が使われるから、おおむね近い結果になるはずだ。

 参考までに、艦これで絶大な防空戦闘力を持つ秋月型駆逐艦は1944年1月以降のスペックで領域AA1.8、軽AA3.7となっている。後部の射撃指揮装置が撤去されて領域AAは竣工時より下がり、かわりに軽AAが増強されている。
 今回想定した輪形陣の対空攻撃力は秋月40隻ぶんにあたる。これもまた、勝利の方程式といえよう。

 AA攻撃力は状況に応じて各種の補正を加える。今回、関係するのは以下だろう。

 ・目標の速度が151~299ktなら ×0.5。300~659ktなら ×0.25
 ・レーダー射撃管制なら ×1.5 (超低空の目標には使えない)
 ・目標が急降下する、または特攻機なら ×0.5
 ・視程が40%以下なら ×0.5 (レーダー射撃管制の場合は無関係)
 ・VT信管なら ×2.0 (超低空の目標には使えない)

 視程は100%、レーダー射撃管制は領域・軽とも有りとする。
 零戦52型の低高度域(2000m以下)における最高速度は256kt(ktはノット。474km/h)。急降下すればその1.33倍の340kt(630km/h)まで出せる。CaSのルールと資料ではそうなる。
 256ktで突入すればAA火力は1/2、急降下して340ktにすれば1/4になるわけだ。
 海面すれすれを飛べば超低空扱いになるので、VT信管とレーダー射撃管制が使えない。
 特攻機は急降下したのか超低空で突入したのか、という問題だが、史実では両方あったらしい。米軍もその両方に対してオペレーティング・リサーチをおこない、回避パターンを指示している。急降下に対しては艦の側面を向け、超低空に対しては首尾方向を向けると回避率が上がる。飯田耕司『改訂 軍事OR入門』によると、米軍はこのとき有効データを365件も収集していた。戦場でこれだけの情報を集め、分析していたのには舌を巻く。勝利の方程式とは物量だけではない。
 VT信管は領域AAで使われたが、すべてというわけではないようだ。
 特攻機が超低空と急降下の場合、それぞれにVT信管の有無を含めてCaSにお伺いを立ててみよう。結果がパーセントで出るとわかりやすいのだが、AAの結果は1戦術ターン、3分間のうちに撃墜した機数で示される。単機で来ようが100機で来ようが結果は変わらない。
 これには2D6(6面体ダイスを2個振って合計する)のゆらぎを加える。ここではダイスが2、7、12のときの値を示す。2D6の期待値は7で、その付近の確率が高い。両端の2と12は2.8%しかない。

・基本値
 超低空機に対して 領域AA攻撃力 15.8 軽AA攻撃力 73.5
 急降下機に対して 領域AA攻撃力 22.5 軽AA攻撃力 73.5


・急降下アプローチでVT信管なし
 領域AA     軽AA
 補正値 0.1875 補正値 0.1875
 攻撃力 4.2   攻撃力 13.8
 撃墜数 0, 2, 3  撃墜数 1, 5, 8  期待撃墜数 7

・急降下アプローチでVT信管あり
 
領域AA     軽AA
 補正値 0.375 補正値 0.1875
 攻撃力 8.4   攻撃力 13.8
 撃墜数 1, 4, 6 撃墜数 1, 5, 8  期待撃墜数 9

・超低空アプローチ (VT信管は機能せず)
 領域AA     軽AA
 補正値 0.25   
補正値 0.25
 攻撃力 4.0   攻撃力 18.3
 撃墜数 0, 2, 3  撃墜数 2, 6, 9  期待撃墜数 8

 この結果では、特攻機にとって有利なのはVT信管が使われていないときに急降下するパターンだが、日本側にVT信管の有無はわからない。遅延信管とVT信管は混在していたようなので、中間をとって期待撃墜数を8とすると、急降下と超低空は互角になる。
 零戦の操縦性は高速になるほど悪くなるので、急降下は不利かもしれない。だが超低空で海面すれすれを飛び、直前でポップアップして艦橋や飛行甲板に突入する、さながら現代の対艦ミサイルのような機動をするのは、これもかなり難しそうだ。技量の低下していた当時のパイロットに可能だろうか。
 とりあえず、この場面は「3分間に8機前後が対空砲火で撃墜される」としておこう。
 8機で行くと全滅するので、それより多くの特攻機を3分間のうちに送り込まなければならない。これはちょっと難しい気がする。

 次は、対空砲火をくぐり抜けた特攻機が目標に命中するかどうかを判定する。
 前の記事の引用部分にあった通り、サイズクラスA,Bの艦(5501トン以上。軽巡以上)への特攻機の命中率は40%だ。はっきりした記述がないのだが、これは基本値で、さらに補正が加わると解釈できる。この補正は航空攻撃表の欄を上下にシフトする数で示される。上にシフトすれば攻撃側に良い結果となる。今回の場合、関与する補正は以下の通り。

 ・プレスホーム(肉薄攻撃)なら 上へ2
 ・AA値>6.0 なら 下へ3
 ・目標速度=26~35kt なら 下へ3
 ・パイロットの経験レベルが新兵なら 下へ2

 結果、命中率はパイロットが「並」なら26%、「新兵」なら22%となる。目標速度、つまり艦隊の速度が26kt以上なのは速すぎるだろうか? この艦隊の最高速度は最低でも33ktあるので、スペック的には可能なのだが。もし速度が16~25ktなら命中率はそれぞれ2%増える。

 簡単のため、パイロットが並なら4機に1機、新兵なら5機に1機が突入に成功したとしよう。
 対空射撃で失われる8機を加えて12または13機。迎撃機の数が1:1だったとして、逃走成功率(75%/49%)を考慮すると、1機を命中させるためには、パイロットが並なら16機、新兵なら27機を投入しなければならない。(注: 2015/09/14 空戦での消耗率を修整)
 同じ3分間に2機を突入させるなら並21機、新兵38機となる。効率はやや上がるが、損耗もどんどん増える。パイロットの技量が損耗率に大きく響くことも数字に表われている。ルールブックにあったとおり、損耗がさらなる技量低下を招く悪循環となっている。
 この結果はちょっと厳しすぎる気もするが、どうだろうか。史実での特攻の成功率は10~15%とする資料が多い。
 ただ、今回のケースは最も困難な目標――ビッグ・ブルー・ブランケットの中心にいる、ハリネズミのように武装した空母を狙った場合だ。末端のRP艦には戦車揚陸艦が2隻護衛につくだけだから、もっと成功率は上がるだろう。史実でも、正規空母は1隻も沈まなかった(大破まで)が、RP艦は10隻以上沈んでいる。
 また、沖縄戦では連合軍のカミカゼ対策が進んでいたので、成功率は低くなっているかもしれない。
 もちろん、ルールの解釈や計算、戦力の見積もりを誤っている可能性もある。今後史実とつきあわせて検証・調整してみたいところだ。ともかく紙と鉛筆で進めるゲームのいいところは、その判定プロセスがすべて明らかになっていることだ。

 最後に、特攻機が命中した場合のダメージを算定する。
 零戦自体が与えるダメージポイント(DP)は40、250kg爆弾の付与DPは35で、合計75DP。
 目標の空母ホーネット(エセックス級)は625DPを持つ。DPはロールプレイング・ゲームで使うヒットポイントみたいなものだ。船の排水量を元にして、艦種ごとの係数を掛けて算定されている。
 今回の攻撃はつまり、625 - 75 = 550
 ホーネットは550まで削られた。これが0になれば沈没する。沈むまでは5段階で速度が削られるのだが、75DPでは最初の段階にも達せず、空母はそのまま進み続ける。もし目標がフレッチャー級駆逐艦なら、DPは76なので、ただちに速度0、沈没寸前になる。
 次にクリティカル・ヒットを生成する。これは現実でもそうだが、偶然の要素が大きく、あくまでありそうな一例でしかない。
 損害比 75 / (625 - 75) は0.14。損害比表からD6で5なら1回、6なら2回のクリティカル・ヒットが発生する。
 ここでダイスを振るが、以下は誓って正直に結果を書く。
 5だった。
 クリティカル・ヒット表で「Aviation Ship」の欄を選び、D20で種類を決める。
 ダイスは1で、飛行甲板にクリティカル・ヒット。だが、この場合は装甲貫通が成立しないとヒットにならない。
 ホーネットの甲板装甲値は6――厚さ6cmの装甲板に等しいことになる。
 零戦自身の装甲貫通値は2cm。零戦が抱えてきた250kg爆弾の装甲貫通値は12cmだが、特攻の場合、1/3になるので4cm。目標の装甲以上の値がないと貫通できないので、この場合、クリティカル・ヒットは成立しない。装甲貫通力に欠けるところが特攻の弱点という、通説通りの展開になった。
 特攻の場合はさらに火災クリティカル・ヒットが自動的に発生する。
 火災の重大性をD6で決定……4 装甲貫通がなかったので1/2して、2。このクリティカル・ヒットの重大性は2%となった。
 火災を鎮圧するまで、ホーネットの初期DP、625の2%、12DPが戦術ターン(3分間)ごとに削られる。
 ややこしいのだが、さらに「重大性レベル」という基準があって、小/大/深刻/圧倒という4段階に分類する。この場合は10%以下なので「小」にあたる。
 消火作業の判定はダメージを受けてから3戦術ターン、9分後から開始する。
 火災および浸水鎮圧表の「小」の欄でD10する……1
 値が小さいほど良い結果だ。1の欄を見ると-2D6とある。現在の重大性2から-2D6を引く。ダイスを振るまでもなく重大性は0になり、火災は鎮圧された。まとめると、
 某月某日某時、空母ホーネット飛行甲板に零戦1機が突入。損傷は軽微。火災は9分後に鎮圧――これが戦闘結果である。
 特攻機の立場からは、残念、ということになるだろう。特攻隊員は「空母ならエレベーターを狙え」と言われたそうだ。エレベーターが降りたところへ突入すると、格納庫の中の飛行機が誘爆を起こし、大火災に発展する。これは実際に起きたことで、沈没はまぬがれても艦は戦場を離脱し、長期間入渠することになった。ダメージ判定を何度か繰り返せば、そんな結果も出るだろう。
 艦これのプレイヤーなら「要は試行回数だよね」と言いながら帰投した艦を修復し、燃料弾薬を補給して再び戦場に送るだろう。
 だがこの場合、1回のダメージ判定をするに至るには、16人の「並」パイロット、もしくは27人の「新兵」の命を差し出す必要がある。史実に即しているかどうかはともかく、それが今回のシミュレーション結果だ。
 仮定と推定はいくらでも続けられる。パイロットひとりあたり家族や友人が10人いたとすれば、敵主力艦が受ける1回の攻撃ごとに160人か270人が死別の悲痛を味わったことになる。

急降下爆撃と回避運動を図上演習で検討してみた につづく