野尻抱介blog

尻Pこと野尻抱介のblogです

爆弾の落下速度を計算してみた(叩き台)

急降下爆撃と回避運動を図上演習で検討してみた
急降下爆撃と特攻を図上演習で比較してみた

 少し間があいてしまったが、図上演習で検討するシリーズのつづきである。特攻と急降下爆撃の有効性を比較するとき、爆弾の落下速度がポイントになることが浮かび上がってきた。

 左の写真は呉の大和ミュージアムで撮ったもので、零戦62型の下に展示されているのが250kg爆弾である。当時は爆弾に特別な興味がなかったので、この写真もたまたま写っていただけだ。一連の記事で想定しているのはこの爆弾である。


 さて、先の記事で「ゲスト」さんがコメント欄に以下の情報を提供してくれた。

急降下爆撃による爆弾の終速(目標に命中する瞬間の速度)は第5航空艦隊参謀が試算してますが
投下する急降下爆撃機の速度を360km/hとした場合
2,000m 1,027㎞/h
1,000m 860㎞/h
500m 713㎞/h
であり
航空機本体 720km/h
と推計してました。

 これは正しいだろうか。この情報では降下角が不明だが、仮に垂直に落下したと考えてみよう。
 等加速度運動の方程式は 距離 = 加速度 × 時間^2 ÷ 2 + 初速 × 時間
 である。1000mから秒速100m(時速360km)で投下した場合、
 1000 = 9.8 × t × t ÷ 2 + 100 × t
 の t を計算すると、7.4秒となる。重力加速度は毎秒9.8m/secだから、9.8×7.4 で72.5、
これに初速を加えて172.5m/sec、時速621km/hとなる。
 空気抵抗を無視しているが、これでさえゲストさんのコメントにある860km/hに届かない。斜めに投下しても速くはならないので、860km/hという値は噴進弾でもない限り、あり得ない。

 じゃあ実際の速度はどうだったかというと、これは空気抵抗を考慮しなければならない。さらに鉛直方向の大きな動きなので高度による大気密度の変化も加味する必要がある。複雑なので、久しぶりにRuby数値計算の短いプログラムを書いてみた。
 私はC言語で育ったロートルなので、Rubyはあまり馴染みがない。バグがあるかもしれないし、恥ずかしいコーディングだと思うが、以下に貼っておく。マサカリ(技術屋が交わす忌憚のない意見)歓迎である。
 …と、ペーストしてみたが、どうもブロマガはスペースで整形したプレーンテキストがそのままでは貼れないらしい。インデントが消滅して読みにくいが、回避策がみつからないのでこれで勘弁してほしい。

#
# 爆弾落下速度計算 ver 1.00 by Nojiri Housuke
#
# -*- encoding: utf-8 -*-
#!/usr/local/bin/ruby
include Math

dtim = 1.0 # 単位時間(sec)
alt = 1000.0 # 初期高度(m)
initspd = 360.0# 初速(km/h)
Mass = 250 # 質量(kg)
dia = 0.30 # 爆弾直径(m)
BaseCd = 0.34 # 抗力係数ベース値

Ga = 9.80665 # 重力加速度

# 空気密度 入力:高度(m)  戻り値:(kg/m^3) 高度11km程度まで
def rou(h)
p0 = 1013.25
t0 = 15
p = p0 * (1 - (0.0065 * h / (t0+273.15)))**5.257
t = t0 - 0.0065 * h
return(p / (2.87 * (t + 273.15)))
end


# マッハ数 入力:速度(m/sec), 高度(m)
def mach(v, alt)
if alt >= 7000.0 then
sv = 270.0
else
sv = 341.0 - (71.0 / 7000.0 * alt)
end
return(v / sv)
end

# 抗力係数 入力:マッハ数
def cdrag(mach)
if mach < 1.2 then
cd = BaseCd + 0.2 / 1.2 * mach
elsif mach <= 10 then
cd = 0.5136 - 0.1 / 8.8 * mach
else
cd = 0.0
end
return(cd)
end

# 空気抵抗 入力:速度(m/sec), 高度(m), 断面積(m^2) 出力:抗力(kgf)
def drag(v, alt, sa)
if alt >= 100000 then
return(0.0)
else
return(0.5 * rou(alt) * v**2 * cdrag(mach(v, alt)) * sa / Ga)
end
end


# メイン
eta = 0
v = initspd / 3600 * 1000
sa = (dia / 2)**2 * 3.14159 # 断面積(m^2)
printf "爆弾質量:%4dkg 爆弾直径:%5.3fm 投下高度:%5dm 初速:%5.2fkm/h\n", Mass, dia, alt, initspd
printf "抗力係数ベース値:%4.2f\n\n", BaseCd
printf " (sec) Alt(m) V(m/sec) V(km/h) V(Mach) Drag(kg) Dens(kg/m^3)\n"
printf "------ ------ -------- -------- -------- -------- --------\n"

while alt >= 0.0
d = drag(v, alt, sa)
a = Ga - d / Mass * Ga
da = 0.5 * (((v + a) * dtim) + (v * dtim))
v += a * dtim
alt -= da
eta += dtim
printf "%6d %6d %8.2f %8.2f %8.2f %8.2f %8.2f\n", eta, alt, v, v * 3.6, mach(v, alt), d, rou(alt)
end


 内容はというと、簡易的な計算なので、随所に誤差がある。空気密度は高度10kmぐらいまでは標準大気とほぼ同じ結果が出るのを確認したが、抗力係数や空気抵抗については自信がない。
 ともかく、結果を貼ってみよう。これもテキスト整形が無効化されていて読みにくいことおびただしいのだが…

爆弾質量: 250kg 爆弾直径:0.300m 投下高度: 9000m 初速: 0.00km/h
抗力係数ベース値:0.34

(sec) Alt(m) V(m/sec) V(km/h) V(Mach) Drag(kg) Dens(kg/m^3)
------ ------ -------- -------- -------- -------- --------
1 8995 9.81 35.30 0.04 0.00 0.47
2 8980 19.61 70.60 0.07 0.06 0.47
3 8955 29.41 105.87 0.11 0.23 0.47
4 8921 39.19 141.10 0.15 0.52 0.47

       (中略)

42 1256 316.51 1139.42 0.96 187.10 1.08
43 939 318.63 1147.05 0.96 195.96 1.12
44 619 320.40 1153.45 0.96 204.70 1.15
45 298 321.84 1158.64 0.95 213.27 1.19
46 -23 322.96 1162.64 0.95 221.64 1.23

 表は左から経過時間(秒)、高度(m)、速度(秒速)、速度(時速)、速度(マッハ数)、空気抵抗(kgf)、空気密度(kg/m^3) の列になる。
 最後に高度がマイナスになるのは、ラスト1秒の間にそれだけ進んでしまうからだが、無精して調節していない。
 この結果は(垂直方向の)初速が0だから、高度9000mから水平爆撃したイメージだ。45秒後に高度298mまで落下し、時速1158km、マッハ0.95と音速近くになる。空気抵抗は213kgだから爆弾の自重に近く、加速度も落ちている。しかしまだ終端速度には達していない。
 数値としてはこんなもんだろうか? 何か実例があったら提供していただきたいのだが、ちょっと検索しただけでは見つけられなかった。250kg爆弾の正確な寸法、重量もわからない。

 試しに高度20000mから投下すると、爆弾は音速を超え、高度7000mでマッハ1.6の最高速度になる。さらに落下すると大気密度が上がるので減速して、地表に達したときはマッハ1.2になった。このプログラムで高度10000m以上は誤差が大きくなるので、あまり当てにならないが、高度による大気密度の変化を加味すると、終端速度というものが単純ではないことがわかる。

 以下は1000mから初速360km/hで投下した場合。地表に達した時の速度は時速600kmぐらいだ。空気抵抗は40kgぐらい。

爆弾質量: 250kg 爆弾直径:0.300m 投下高度: 1000m 初速:360.00km/h
抗力係数ベース値:0.34

(sec) Alt(m) V(m/sec) V(km/h) V(Mach) Drag(kg) Dens(kg/m^3)
------ ------ -------- -------- -------- -------- --------
1 895 109.19 393.10 0.33 15.64 1.12
2 781 118.25 425.71 0.36 19.06 1.14
3 658 127.16 457.78 0.38 22.85 1.15
4 527 135.91 489.27 0.40 27.02 1.16
5 387 144.48 520.12 0.43 31.58 1.18
6 238 152.85 550.26 0.45 36.53 1.20
7 81 161.01 579.65 0.47 41.87 1.22
8 -83 168.96 608.24 0.49 47.58 1.24

 以下は高度500mからの投下。着弾速度は時速500kmぐらい。

爆弾質量: 250kg 爆弾直径:0.300m 投下高度: 500m 初速:360.00km/h
抗力係数ベース値:0.34

(sec) Alt(m) V(m/sec) V(km/h) V(Mach) Drag(kg) Dens(kg/m^3)
------ ------ -------- -------- -------- -------- --------
1 395 109.16 392.99 0.32 16.39 1.18
2 281 118.19 425.47 0.35 19.96 1.19
3 159 127.06 457.40 0.37 23.91 1.21
4 27 135.75 488.72 0.40 28.25 1.22
5 -112 144.27 519.36 0.42 32.98 1.24

 どの計算も、爆弾の重量や直径、空気抵抗係数は適当だが、ここをいじっても大きな違いはない。高度1000m以下からの投下で支配的なのは初速と重力加速度で、空気抵抗は1割程度しか効いてこない。
 時速500~600kmというのは機体速度と大差ないから、ゲストさんが指摘したとおり、急降下して突入した特攻機の爆弾による貫通効果は、急降下爆撃の場合と大差ないように思える。
 CaSで特攻機が抱いた爆弾の装甲貫通効果が減るのは、超低空でのアプローチなど、さまざまな突入経路が統計的に均されているとみたほうがよさそうだ。

 CaSの判定を補正するなら、パイロットの練度に応じて急降下突入の成否を判定し、成功した場合は装甲貫通のマイナス補正を外せばいいだろう。
 しかし、現行ルールは実戦の記録に基づいているから、統計的に均した結果は史実に近いと思われる。現行ルールでマイナス補正されるのは特攻機が抱いた爆弾の装甲貫通だけであって、飛行機自体の付与ダメージと焼夷クリティカルヒットは爆弾と別に加味されている。特攻の効果を特に矮小化したルールではないと思う。
 飛行機自体の装甲貫通力が低いのは、断面積の大きさが影響している。戦車砲のAPなんとかという徹甲弾を見ればわかるとおり、なるべく重く、高速で、細い弾にしなければ貫通力が望めない。零戦の栄エンジンは250kg爆弾に対して、重量は約2倍だが、衝突断面積は15倍ほどになる。
 日本軍は特攻での装甲貫通が弱くなることに気づいていたようだが、たとえ急降下を命じていても、あの弾幕の中では思うように突入できなかったのかもしれない。接近途中で墜落するよりは、被弾しにくい経路を取ったほうがまし、という判断もあり得るだろう。