野尻抱介blog

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Makerは我が道を行く――Maker "Fire" 能登、あるいはNT能登キャンプ


 日本最大のMakerの祭典、Maker Faire Tokyo (MFT) は、今年も充実していた。ビッグサイトの西2ホールを埋め尽くした作品はどれをとっても創意工夫に富んでいた。








 科学未来館が会場だった頃はとにかく窮屈で、テーブルに乗る小さな作品を詰め込んだ養鶏場のような眺め、と感じたこともあったが、ビッグサイトになってからは高水準を維持していて、文句のつけようがない。通路が広くて出展者とゆっくり話せるし、アメリカ本国のMaker Faire で見かけるような巨大オブジェはないが、乗用車サイズの作品ならごろごろしている。
 だがしかし、私はそんなMFTにも慣れてしまった。優れた作品で飽和状態になるせいか、以前のようには感激しなくなった。集まる数が多いので、優れた作品でも市場価値が低下して、ありふれたものに感じてしまう。
 そしてビッグサイトも、ある意味では窮屈だ。床面積は大きいが、消防法の規制がうるさく、燃焼系の作品が展示できない。ハンダゴテさえ自由には使えない。
 かつてMFTがMake Tokyo Meeting と呼ばれていた頃は、もっと奔放だった。火炎を噴き出す自作ジェットエンジンや、レシプロ機関で動くロボットなどがあって、世の中にはこんな無茶をする奴がいるのか、と刺激を受けたものだ。
 俺定義では、Makerとは、技術をもって我が道を貫く人であるその作品は他人にとって不快なものや危険なものもあるはずだ。
 現在のMFTにはそうした作品がない。オタクっぽさもほぼ消えた。生き方を感じさせる作品はあるが、家族連れでも安心して見られる行儀のいい作品ばかりが選ばれている。これが悪いとは言わないが、以前のようにはわくわくしなくなった。

 イベントと自分がこんな関係になったら、さっさと別の道へ進むのがいいだろう。
 ニコニコ技術部・金沢メンバーのヒゲキタさんとあきにゃんも大体同じことを考えていたらしく、「NT能登キャンプ」を企画した。日時と場所だけ決めておいて、あとは自由、参加登録もしないというフリーダムなイベントだ。Maker Faire というよりはバーニングマンに近いかもしれない。場所は能登半島のほぼ先端、五色ケ浜海水浴場。日時は8月13~14日。
 NTというのはNicoTecの略である。ニコニコ技術部のイベントはNT+開催地名+開催年という命名規則になっている。これは整理用の名前で、別に愛称をつけることもある。この場合は「Maker Fire 能登」が愛称になるだろうか。

 Maker Fire(Faireではない、ファイヤーである) を名乗るからには、火を使ったものを持ち込みたい。
 そこで私は前からやってみたかったポテト砲を作った。じゃがいもを砲弾として発射するもので、推薬はカセットコンロのブタンガスなどを使う。やんちゃなMakerの遊びとして定番で、potato cannon で検索するといろいろ出てくる。金属弾を発射しない限り、銃刀法には触れない。
 動画>> 燃焼チャンバーの着火試験1着火試験2ポテト弾の試射
 このタイプのポテト砲は塩ビ製で、凝らなければ1~2時間で作れてしまう。とはいえ初めてだったのでいろいろな問題に直面し、いまいち着火が安定しないまま当日を迎えた。ほかに投げ釣り道具、シュノーケル一式、目印用のデルタカイト、キャンプ用具を車に積み込んだ。
 私は前日から出発し、当日朝9時に小松でnikuさんを拾って会場をめざした。
「会場は金沢のちょっと先」ぐらいに思っていたのだが、私は能登半島をなめていた。金沢からが遠いのだ(羽咋からも遠い)。しかもお盆期間だから帰省ラッシュで道が混んでいた。

 羽咋の手前でなぎさドライブウェイを走った。日本で唯一、車で波打ち際を走れる道路だ。しかしここも結構混んでいた。
 羽咋から"のと里山海道"なる道路に乗って山の中を延々走り、東海岸に出てからも延々走った。

 途中の海岸に伝統漁法「ボラ待ち櫓」なるものがあった。櫓からボラの群れが来るのを監視していて、来たら網を引きあげて一網打尽にするのだそうだ。


 午後2時頃、ようやく会場の五色ケ浜海水浴場に着いた。先にヒゲキタさんが来ていて、テントとブルーシートで場所を確保していた。なぜか「NT金沢」の看板を掲げている。
 この写真ではよくわからないが、海水浴客が大勢いて、駐車場もしばらく空きを待つ状態だった。もっと辺鄙で貸し切りになるような場所だと思っていたのだが、これではポテト砲が撃てない。

 とりあえず、デルタカイトを揚げて目印にした。この凧でニコニコ技術部の幟を掲げるつもりでいたが、幟を持ってくる人の到着が日没後になったので果たせなかった。
 相馬野馬追に影響されて「人生は旗だ」などと考えるようになり、今回も旗を揚げることにこだわっていたのだが、残念だ。次からは人に頼らず、自分の旗を作っていこう。


 とりあえず、他の海水浴客が帰るまで、泳ぐことにした。
 素晴らしい海だった。波打ち際は真っ白な砂地だが、10mほどで海藻が繁るようになる。消波ブロックを積んだ防波堤や岩場まで行くと、さまざまな魚が見られた。透明度も高く、10mぐらい見通せる。
 私は珠洲市まで車を走らせて釣り餌を買い求め、投げ釣りをやってみた。キスが一匹釣れたが、伊勢湾のように遠浅ではなく、すぐ根掛かりしてしまう。そこで棒きれの先に短い釣り糸と釣り針を結び、餌をつけて、シュノーケリングしながら魚を誘ってみた。すぐに小さいフグが飛びついてきた。食べるわけにはいかないが、水中で様子を眺めるのは面白かった。nikuさんに道具一式を貸すと、彼も長いこと熱中していた。

 後になって思ったのだが、シュノーケルと水中眼鏡を持参するよう、参加者に伝えておくべきだった。夏の海辺に来て、これがあるとないでは体験がまったく違う。よく水中映像で見かけるダイビングの世界を体験するには、大がかりなスキューバ装備など要らない。1000円ぐらいで買えるシュノーケルと水中眼鏡だけでも満喫できる。さらに足ヒレがあれば行動半径がkm単位で拡大する。

 夕方になって他の海水浴客がいなくなったので、私はポテト砲を撃った。
 めむくろさん撮影の動画
 ポテト砲の弾丸にはじゃがいもを使うのだが、これをてるてる坊主のように布で包んで数mの紐を結ぶと、いろんなものを投射できる。他の人が持ってきていた花火を飛ばそうとしたのだが、このときはうまく着火せず、失敗に終った。どうやら撃った後にチャンバー内を換気しないと適切な混合比にならないらしい。



 暗くなってくると、あちこちで野外調理が始まった。私も釣ったキスを焼いて食べた。焼肉、パエリヤ、MRE、ダッチオーブンの料理など、盛りだくさんである。
 車から電源を取ってビールサーバーも設置され、ビーパル族の宴会みたいになった。このときは20人ほど集まっていた。



 暗くなると参加者による火炎ショーが始まった。スプレー缶にガスバーナーで着火するもの、火をつけたスチールウールに針金をつけて振り回すもの、マッドマックスの火炎放射ギター、水素爆鳴気の点火など。
 いちばん過激だったのは充電したリチウム二次電池を斧で割り、バーナーであぶるというものだ>>めむくろさんの動画
 リチウム電池発火事故はよくあるので、こうした機会に体験しておくといいだろう。

 なかなか刺激的な宴になったが、いまひとつまとまりに欠けていた気もする。
 私が普段しているソロキャンプはもっとストイックなもので、食料はなるべく現地調達し、焚き火で必要最小限を作る。酔うと危険だから酒は飲まないか、ごく少量ですませる。夜はしじまの中で星を見上げたり、獣の鳴き声に耳をすませたりしながら思索にふけるスタイルなのだが、今回は花見の宴会みたいなものになった。
 焚き火を囲んでMakerの人生観などを語らう時間があってもよかったのだが、数人のグループに分かれて雑談するばかりだった。しゃべる人はとことんしゃべり、静かな人は黙ったままなので、少し仕切って自己紹介ぐらいさせればよかったと思う。いまだに誰が来たのか把握できないし、Twitterのまとめ を読んでもハンドル名と本人が結びつかない。

 キャンプといっても人それぞれで、私は夕方から翌日午前中までがコアタイムだと思っていたのだが、夕食が終ると片付けが始まり、家に帰ったり宿に移動する人が出始めた。なんだか思っていたものと違うなあと思いつつ、お開きムードになったので、私も車の中で横になった。
 後でヒゲキタさんから聞いたところでは、そもそもこの場所はキャンプ禁止だということが当日になってわかった。海水浴場の管理人が「まあいいよ」と見逃してくれたので続行できたのだが、次は別の場所を探さねばならない。

 4時頃目が覚めたので、車を降りて用を足した。月が沈んだために満天の星空になっていて天の川もくっきり見えた。ちょうどnikuさんも起きてきたので、二人でペルセウス座流星群を眺めた。流星群のピークは前日だったが、このときは20分ほどで10個以上の群流星を見た。

 翌朝は8時前に起き、再び海で遊んだ。まったくこの海は素晴らしい。nikuさんがキスを釣ったので、焚き火で炙って食べる方法を指南した。

 海に向かってポテト砲で水切りをしたりもした。じゃがいも弾は水面を3回跳ねた。
 仰角45°で撃つと100m近く飛んで防波堤の外側に水柱が上がった。

 3人ぐらいで11時頃まで遊んで、帰途についた。途中、コスモアイル羽咋に寄って宇宙機を見物した。他のメンバーは景勝地に行ったり、自家用機で体験搭乗したり、金沢で遊んだり、自転車旅行を続けたりしたようだ。各自やりたいようにやっているところは頼もしい。

 私はこの旅とイベントを大いに楽しんだが、先述の通り、Makerがたくさん集まったことによるシナジーが十分に引き出せなかったのは反省点だと思う。また、人によってアウトドアのスタイルがかなり違うのにも戸惑った。
 しかし、ぜひ次に繋げたいものだ。そのときは以下の点を練っておきたいと思う。

コアタイムだけははっきり決めて、自己紹介や作品演示を全員参加でやりたい。
・お盆期間は避けたい。コミケと重なるのもよくない。
・海なら海水パンツ、水中眼鏡、シュノーケルは持参したい。
・キャンプするならLEDヘッドランプは持参したい。
・どんなアウトドア活動になるか、事前に承知しておきたい。花見宴会、河原バーベキュー、デイキャンプ、オートキャンプ、バックパッキング等の分類など。
・車横付け可能か、裸火で焚き火可能か、トイレ・水場はあるか、爆音は出せるか等を確認しておきたい。
・ゴミが出過ぎるので使い捨て食器を禁止したい。各自が飯盒やメスキットを持参すればゴミ問題は解消するはず。