野尻抱介blog

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フロリダ紀行/ココアビーチ編

 山崎家よりスペースシャトルSTS-131の打ち上げ見学に招待されたので、4月のはじめ、フロリダに行ってきた。恥ずかしながらケネディ宇宙センターに行くのは初めてである。というか海外でロケット打ち上げを見るのも初めてだ。
 はるばる海外まで行って、打ち上げ延期になったりしたら悲しい。だが日食と同じで、機会あるごとに行ってみなければ永久に見られない。招待枠で見学できるなんてもうないことかもしれないから、思い切って行ってみたのだった。





 オーランドに着いたのが4月2日の夜で、空港でレンタカーを借りてカーナビも地図も持たずに東に向かって走った。ハイウェイから一般道に降りてしばらくさまよったあげく、コンビニで地図を買い、デニーズに入って店員に「私はどこにいますか?(Where am I?)」と訊いた。「いい質問だね。ええと……ここだよ」と示されたところはメリット島の中だった。東へもう少し走って予約したココアビーチのモーテル6にたどり着いた。
 翌朝、隣のワッフルハウスでこってりした朝食を取って、ビーチに出てみた。『ザ・ライトスタッフ』で宇宙飛行士たちが走り回った場所だ。北のほうを見ると、空軍基地のロケット発射台が見える。砂は白っぽくて、きゅっきゅっと鳴る。その照り返しが強いので、この季節でもかなり暑い。
 波打ち際では投げ釣りする人がいて、見ていると小さなエイが釣れてきた。外道だったらしく、鉤を外して海に返していた。砂が濡れて締まったあたりはジョギングする人が行き来している。
 上空を見ると、パイパーカブみたいな飛行機が巨大なバナーを曳航して行き来している。砂浜の規模はうちの近所の海岸と大差ないが、アメリカへ来たなあ、としみじみ思った。

 昼頃、今度は無線機を持ってビーチに出た。アメリカと日本はアマチュア無線の相互協定があって、届け出をしなくても自由に無線運用ができる。フロリダではW4/をコールサインの頭につければいい。
 ビーチに出る回廊の手すりに自作のVCHアンテナを立て、キットから組み立てたPFR-3トランシーバーをつないだ。7MHzのCW(モールス)でしばらくワッチしてみる。
 そばを通りかかるアメリカ人たちが「何をやってるの?」と訊いてくる。「へム・レディオ」と答えるとすぐわかってくれる。
 アメリカで無線運用するのは二度目だが、モールスは日本のように「599 BK」ばかりではなく、平文に近い英文で丁寧にリグやアンテナなどの情報を交換する。モールスだけでも大変なのに英文をやりとりするのは大汗をかく作業だが、それで意思疎通できたときの面白さは格別だ。あとで思い出すと日本語の声になって再生されるのが不思議で、言語機能の不思議が味わえる。
 VCHアンテナはコンパクトで携帯向きだが、ちょっと神経質なところがある。電波がよく飛ぶときもあれば飛ばないときもあり、まだコツがつかめない。CQを出している局を呼んでみるが、応答がない。

 そうこうしていると「やあ、無線かい? 私もハムだよ。CWは2年ほどやってないがね」と声をかけてきたおじさんがいた。
「ほんとですか。私はジュリエット・ケベック・ナンバーツー・オスカー・ヤンキー・チャーリーです」「こっちはキロ・アルファ・ジーロ・キロ・シエラ・タンゴ、フィルだ。ミネソタから来てる」
 と、フォネティック・コードコールサインを交わす。
 スペースシャトルの打ち上げを見に来たと言うと、
「私もだよ。私はSTS-131のクルー、クレイ・アンダーソンの兄だ。今朝もいっしょだった」という返事で驚く。
 彼のハンディビデオを見せてもらう。KSCから飛ぶ宇宙飛行士たちとその家族は、打ち上げ前、「ビーチハウス」と呼ばれる海岸のコテージですごし、しばしの別れを惜しむしきたりがある。それが今朝のことで、山崎夫妻も写っていた。
「直子? ああ、あのちっちゃくてきれいな人だね」と、フィル。
 彼は夫婦で来ていて、打ち上げ後はよその州に移動し、二週間後の着陸のとき、またここに来るという。宇宙飛行士の家族がうろうろしているとは、さすがココアビーチだなと思ったことだった。



 午後、401号線を空軍基地に向かってドライブしてみる。豪華客船が居並ぶカナベラル港の横を通り、広大なバナナ河の向こうにKSCの施設がちらほら見える。写真でよく見る、湿って白く散乱した光の感じはそのままだ。路肩に車をとめて周囲を観察すると、一面に咲いたヘビイチゴの花を蜜蜂がめぐっていたり、水辺にカブトガニの死骸が転がっていたりする。
 一服していると、パトカーに先導されて左側車線をそろそろと逆走してくる大型トレーラーを見かけた。側面にSPACEHABとあるから、中身はこういうものだろう>http://www.spacehab.com/business-units/spacehab-trans

 夕方、モーテルに戻ると、Twitterで知って合流することになったnecovideoさんと渋矢さんが来ていた。オーランドから走ってきて空腹だというのでワッフルハウスで食事して、またビーチに出た。さっそくニコ生が始まる。初めての大西洋ということで、大いに盛り上がったのだった。