野尻抱介blog

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「想像上の間宮羊羹」の糖衣について


提督の食卓SPECIAL 【特集】間宮さんのお台所』に掲載された「想像上の間宮羊羹」だが、2015年冬コミでの発売以来、多くの人が実際に作ってくれていて嬉しい。Twitterで見つけたものは 随時Togetter「想像上の間宮羊羹」作例まとめ採録している。
 さて、作った人のツイートを見ていると、羊羹の表面にできるシャリシャリした糖衣が生成されなくて戸惑う人が多いようだ。
 記事では「型から外して1日ぐらい空気にさらしておく」だけで糖衣ができると書いたのだが、もっと時間がかかる場合もあるようだ。糖衣ができるまでの時間や条件は、私もよくわからない。わかっていたらレシピに書いただろう。しかし、いくつか思い当たることがあるので以下に説明しよう。
(1) 煮込み加減
(2) 気温・湿度
(3) 羊羹の表面状態
 の3要素だ。

「想像上の間宮羊羹」とは、ざっくり言えば海軍主計兵調理術教科書のレシピで作り、その後しばらく乾かして糖衣をつけたものだ。現在市販されているものだと、左の小城羊羹に近いのだが、これは偶然ではないようだ。有馬桓次郎さんの調査によると、間宮の羊羹製造スタッフと小城羊羹につながりがあるという。
 さて、海軍主計兵~レシピでは、布でしぼった小豆こしあんを、その重量×1.5倍の砂糖、棒寒天4本とともに煮込む。どれくらい煮込むかというと、実はちゃんと計測してない。1時間前後だったと思う。

 左が煮込み始め、右が煮込み終了の状態だ。鍋の内側にあるリベットは、下が鍋底から70mm、上が95mmの位置にある。
 目分量だが、煮込み始めは深さ55mmだったものが、終了時は45mmぐらいになっているようだ。体積が約20%減るまで煮込んだことになる。煮込みにつれて色が黒っぽくなり、飴っぽい匂いがしてくる。

 なお、写真の状態よりさらに強く、焦げつく寸前まで煮込んだこともある。そのときは羊羹が型にこびりついて、外した後もべとべとした状態が続いた。寒天というよりは、砂糖で固まった飴のような状態になったのかもしれない。

 気温・湿度もよくわからない。この作例は12月15日のもので、暖房のない台所に放置した。

 羊羹の表面状態だが、私の経験では、表面がつるつるだと糖衣ができにくかった。
 左の写真は押し寿司の型に細い針金を通して羊羹を切り離した直後の状態だ。いわばチーズ切りを使ったようなもので、上面はつるつるだが、針金で切った側面はざらざらしている。
 右の写真はしばらく空気にさらした後だが、左の写真の羊羹を裏返しに置いている。裏側は針金で底板から切り離したので、やはりざらざらになっていて、こちらのほうが糖衣が目立っていたからだ。針金は弧状になって羊羹を切り進んだので、その模様が糖衣に浮き出ているのがわかる。つるつるした面も糖衣ができていたが、一見変化がないように見えるので、写真うつりが悪かった。
 ざらざらした表面だとなぜ糖衣ができやすいのか。これもよくわからないのだが、微小なささくれの先端は乾きやすく、そこが結晶核のように作用しているのではないだろうか。この糖衣はつまりショ糖の結晶で、結晶は核になるものがないと成長しにくいものだ。

 左の写真は、村岡屋小城羊羹の手法を真似て、手箒で表面を撫でたものだ。これも針金で切るのと同じように、表面をわずかに荒らしたことになる。写真の手箒は掃除用のものだが、新品をいちど水でよく洗ってから乾かしたものだ。
 追記: こちらの記事に、小城羊羹作りの職人が手箒を使っている写真がある。

 このときの羊羹は12月20日に作り、29日の冬コミでれつまるさん、有馬さん、オペちゃんに差し上げた。れつまるさんが写真をUPしていたので、ここに転載しておこう。時間が経っているせいか、ちょっと厚めの糖衣ができている。

 左は自家消費用に作ったもので、ポリ袋でゆるく包んだまま、冷蔵庫で1か月ほど放置したものだ。2mmぐらいの分厚い糖衣ができていて、これはちょっと切りにくいし、食べにくい。さらに放置したらすべて糖衣になりそうだ。
 ともかく、海軍レシピで作った羊羹なら、空気にさらした状態にしておけば、糖衣は必ずできるはずだ。夏なら黴びるかもしれないが、腐る心配はまずないので、布巾などで空気が通る状態にして気長に待ってみよう。

 呉や横須賀で「間宮羊羹」として売られているものがある。調べたことはないのだが、土産物だから密封包装されているにちがいない。これらも包装を外してしばらく乾かせば糖衣ができると思う。ただしそれは海軍レシピでできた羊羹の話で、水飴を使った普及品の羊羹に糖衣ができるかどうかは未確認だ。