野尻抱介blog

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『提督の食卓SPECIAL 間宮特集』と30年ぶりのコミケ


 このたび、このブロマガでもたびたび紹介しているスタジオゴンドワナの同人誌『提督の食卓』新刊に記事を寄稿した。給糧艦間宮の再現レシピとして「想像上の間宮こんにゃく」「想像上の間宮羊羹」、そしてコラム「間宮さんを守れ ――給糧艦間宮の最期」である。
 レシピに「想像上の」がかぶさっているのは、想像で補っている部分があるからだ。とはいえ、有馬さんから間宮羊羹製造に携わった人の調査結果や、実際に食べた人の証言などの情報提供を受けたので、自分一人で研究していた時よりは格段に再現性が高まっている。
 艦これ本の体裁を取っているが、艦これが始まる前からの有馬さんのリサーチが結実したもので、間宮研究の決定版と言ってもいい完成度になったと思う。
 コラム「間宮さんを守れ」は潜水艦シーライオンによる間宮撃沈を、当時の哨戒レポートをもとにCaSで再現したものだ。
 この分析では間宮が攻撃を回避し、さらに護衛艦がシーライオンに反撃する可能性もあったことがわかった。紙幅の関係で反撃シナリオまでは語れなかったが、いずれブロマガで詳説したいと思う。

 新刊はコミケ89で発売されるというので、自分も売り子として参加したい旨申し出たところ、快諾していただいた。
 コミケは晴海時代、1980年代半ばに数回出たきりなので、現在の様子を見ておきたかったのである。関係者に贈るために「想像上の間宮羊羹」を6本作った。識別してもらいやすいように、Twitterアイコンつきの名刺も作った。

 12月30日、コミケ二日目の朝。東銀座のホテルを6時半頃チェックアウトして有楽町線で新木場へ行き、りんかい線に乗り換えた。左は0718の国際展示場駅前の様子。すでにかなりの人出がある。ここからまっすぐビッグサイトに向かえば、あの巨大な行列が見られるはずだったが、私は臨時駐車場のそばで有馬さん一行と待ち合わせた。

 スタジオゴンドワナ(ガレージのき☆したと合同)のスペースは東1と2の間で、トラス柱の前だった。
 この時までわかってなかったのだが、スタジオゴンドワナは準大手サークルの扱いで、ここは"偽壁"スペースというのだそうだ。壁サークルのように、待機スペースが他より広い。
 コミケのサークル参加といえば、並ばずに入れてのんびり一日を過ごし、ときどき交代で買い物に行けちゃうよな…と目論んでいたのだが、少々甘かった。
 周囲は見渡す限り艦これ系だった。ポスターを眺めているだけでも眼福だったが、これだけ多いと選択回避に陥ってしまう。30年前もそうだったが、表紙はどこも立派なので、当日に選ぶのは難しい。

 前日搬入されていた大量の本。スペースが狭いので、テーブルのすぐ後ろに隔壁のように積まれた。売り子はテーブルと隔壁のわずかな隙間に立つことになる。

 外に出てみると、屋台が数軒あった。コンビニで飲み物とおにぎりを買い込んでおいたのだが、食事も一応できるとわかった。
 写真右は荷物の受け渡しエリアらしい。当日搬入というやつだろうか。

 ゴミ収集所はいつ見ても業者の人が中身を搬出していた。段ボール箱は各自で解体してコンパクトにまとめてから運んでいた。
 写真右はかわいいポスターだなと思ってよく見たら救護所の案内だった。

 0950、スペースの設営は完了していた。売り子としてあすか(あすきょう) ‏@asukyo_asukaさんが艦娘間宮のコスプレで参加された。まるで後ろのポスターから抜け出したようなかわいい人だった。
 10時に開場したとき、売り子はあすかさんと私の二列態勢だったのだが、みんなあすかさんのほうに並ぶのだった。「二列でお願いしまーす。運の悪い人はこっち」と声をかけて誘導した。
 開場直後はそれほど混まなかったが、11時頃から360度みっしり人の壁ができて、イモ洗い状態になった。壁サークルに突進していた人々が時間差で島に流れてくるらしい。
 たいていの人は、あらかじめ売られているものを知っていて「これください」と新刊を示す。「中を見てもいいですか?」と聞いてくる人は1~2割だろうか。「いいに決まってるじゃないか。君の金だ、しっかり見定めて判断したまえ」と内心思ったが、列が停滞するのを気遣っているのかもしれない。立ち読みする人は脇に動いてもらい、次の人を誘導したりしたが、これは島の端部、いわゆる"お誕生日席"でないと難しいかもしれない。コミケは人口密度が半端なく高いので、いろいろ配慮して行儀良くしないといけないことを、来場者から教えられた格好だ。
 私はマスゲームのような状態を嫌う性分なので、ときどき発作的に秩序を乱したくなったが、ぐっと我慢した。マスゲームといっても内容は「個」の集積であるから、邪魔するわけにはいかない。

 11時半頃、早くも声が枯れてきたので交代してもらい、トイレと喫煙所に出かけた。外を見ると、人の海ができていた。『日本沈没』の皇居開門シーンを思い出す。「見ろ、人がゴミのようだ!」と叫びたくもなったが、これも我慢した。
 14時になるとピークは過ぎた感じになったが、スタジオゴンドワナの本は一定のペースで売れ続けていた。有馬さんによると、いつもこのパターンだという。
 私は「羊羹って何だ?」とツイートしていたポーランド人、オペちゃん @OPERATORCHAN に「想像上の間宮羊羹」を差し入れに行った。オペちゃんのスペースは西館のメカミリエリアにあって、早々に完売していた。羊羹を一本手渡し、さらに試食用を一切れ食べたオペちゃんは「うんまっ!」と言ってくれた。
 メカミリエリアにも面白そうな本がたくさんあったのだが、きりがないので一冊も買わなかった。結局、この日は艦これエリアで呉や舞鶴の探訪本を数冊買うにとどまった。

 16時、閉会となって片付けが始まった。右の写真は1616に撮影したもので、どのサークルも手際よく撤収していく。スタジオゴンドワナは搬入した本をほとんど売り切り、残ったのは段ボール1~2箱程度。

 階段には未発達ながら"コミケマリモ"が発生していた。これは私がコミケに通っていた頃に初めて観測・命名されたもので、現在では知らない人もいるようだ。人混みで発生した埃が凝集してマリモ状になる現象を言う。

 有馬さん一行は打ち上げに行くとのことだったが、私は三重県まで帰るため、先に失礼した。写真は1640のビッグサイト。混雑はかなり解消していて、ゆりかもめにも待たずに乗れた。
 30年ぶりのコミケはどうだったかというと、大きな違いはなかったと思う。規模は拡大し、同人誌の印刷品質も向上し、外国人が増えていたが、一人の人間が見回せるものは、基本的に変わっていない。30年前と同様、コミケスタッフは手慣れていてホスピタリティも良好だし、サークルも一般入場者も行儀が良く、群衆事故の危険をどうにか回避していた。現在、大手同人誌は通販で買えるものが多いので、かつてのような殺気立った雰囲気は緩和されていると思う。
 最近の変化として、男性コスプレイヤーが増えて更衣室が混雑したと聞く。私はコスプレイヤーそのものをあまり見なかったので実感がない。ニコニコ超会議の超乗合馬車では、確かに男性コスプレイヤーの搭乗が年々増えているし、性別がわからないことも少なくない。