野尻抱介blog

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『提督の食卓』を見て作った料理まとめ (1)


 他の記事でもとりあげたが、スタジオゴンドワナの同人誌『提督の食卓』シリーズ(文:有馬桓次郎 イラスト:れつまる)は、海軍料理好きにはまことに面白い本だ。
 第一、二集は昭和14年に行なわれた「第一艦隊献立調理特別努力週間」という、各艦対抗お料理コンテストに提出されたレシピをピックアップし、再現調理したもの。第三集は昭和10年の「第二艦隊主計科兵食調理研究週間」に寄せられたもの。四作目の『提督の食卓SPECIAL』は各艦のカレーを集めている。
 分量が不明瞭なところは『海軍主計兵調理術教科書』等で補完したり、材料の入手が難しいものは類似のもので置き換えるなど、有馬さんの判断でアレンジされているが、できるだけ史実に忠実であろうとし、いわゆるご当地海軍カレーとは一線を画している。

 レシピは各艦の主計課が考案したものだが、艦の規模や種類によって烹炊設備が異なるので、実際に調理してみると「戦艦料理」「駆逐艦料理」のようなものが浮かび上がってくる。駆逐艦のプラモを作ってみると、主機の煙突の外側に細い風呂釜の煙突みたいなものが寄り添っているのがわかるが、あれは烹炊所の重油バーナーの排煙を導いたものだ。いっぽう大型艦は主機ボイラーの過熱蒸気を利用する蒸気釜を使うことが多かったらしい。食材の貯蔵環境も異なるはずで、小さい艦ではあまり多様な材料を使えなかったかもしれない。

 艦これに絡めているので、艦娘の絵がついているのも楽しい。れつまるさんの描く艦娘は表情やポーズに精気があり、オリジナル以上に艦娘らしく感じられる。(写真左)
 艦娘のキャラクターは元のイラスト、声、史実、スペック、ゲームでの役割など、諸々の要素がプレイヤーの間で揉まれ、誰が言うともなしに醸成されている。れつまるさんの絵はそうした二次創作にあたるもので、オリジナルのイラストレーターはそんなキャラクターになることを予期していなかったにちがいない。

 この本のレシピを取り入れることで、マンネリ気味だった私の自炊生活はずいぶん潤った。日本海軍の料理は基本的に昭和の家庭料理なので、私には懐かしい「おふくろの味」に近い。栄養バランスも考慮されているから、毎日食べてもいいだろう。ただし量はちょっと多い。
 そんなわけで、これまでに『提督の食卓』を見て作った料理を日付順にまとめておく。

「ミス金剛のフィッシュフライ」 (第一集)


 ダッチオーブンを買ったところだったので、その馴らしを兼ねて揚げ物を作った。魚はタラ、衣は全粒粉を使った。あまりレシピに忠実ではないが、フィッシュ&チップスぽくなるように心がけた。

●「阿武隈ちゃんの 巻き焼」 (第一集)
 「どう見てもただの醤油入り卵焼き」と突っ込まれているが、その通りである。このレシピを知る前から、私は弁当のおかず用に同様の卵焼きを作っていた。
 ただし、巻末の解説にもあるように、当時、卵はありがたいものだったようだから、これは嬉しいメニューだったかもしれない。

●「腹ぺこ赤城さんの 酢豚」 (第一集)

 彩りがいまひとつだが、普通に美味しい酢豚ができた。じゃがいも、大根を使うのに戸惑ったが、海軍料理ではあまり多様な野菜を使えないようで、他のレシピにも登場する。

 余談だが、上の料理のために業務用食材店で1kg入り味付けメンマを買った。500円ぐらいである。その結果、大量のメンマが余ったので、昔からの夢だった「メンマ山盛りラーメン」を作ってみた。最後までメンマがなくなる心配をせずにもりもり食べられて、まことに幸せであった。

●「お休み処 間宮さんの 信田巻き」 (第一集)

 給糧艦間宮のゲスト参加作で、とても手が込んでいるので苦労した。薄揚げを開くのに手こずったが、これは湯通しを忘れたためらしい。かんぴょうも柔らかく煮すぎて、結ぶのが大変だった。味はとても良く、繊維質が豊富でヘルシーだ。

●「艦隊の頭脳 霧島さんの 牛肉の混ぜご飯」 (第二集)

 いかにも蒸気釜で作りました、というレシピである。牛肉を使うのでご馳走感があって、気に入っている。
『海軍めしたき物語』(高橋 孟)、『自分でつくる うまい!海軍めし弁当』(青山智樹、バーバラ・アスカ)によると、戦艦霧島のミッドウェー海戦における戦闘配食も牛肉五目めしのおにぎりだったので、そちらも作ってみた。『提督の食卓』レシピでは炊き込みだが、『自分でつくる~』では炊飯後に具をまぜあわせている。

●「大和が教える 海軍標準チキンカレー」 (SPECIAL)
 カレーのレシピを集めた『提督の食卓SPECIAL』にあるスタンダードな海軍カレー。『自分でつくる うまい!海軍めし』にもほぼ同じレシピが載っている。
 カレー粉+小麦粉を牛脂で炒めてルーを作る、いわゆる「うどん粉カレー」である。現在のルーに較べると、粉っぽくていまひとつ美味しくない。
 戸惑ったのは、ルーを練ってスープを加えたところに具を入れる、という段取りだ。普通は先に具を水煮してからルーを加える。これなら沸騰に近い温度で煮込めるが、ルーの中で煮込むのでは高温が出せない。実際、具が柔らかくなるまでにずいぶん時間がかかった。
 なぜこうなったのか、青山智樹さんによると「鍋ひとつで調理するためではないか」とのことだった。蒸気釜なら焦げ付く心配もなく、時間をかけて煮込めることもあるだろう。ただし『提督の食卓SPECIAL』の他艦のレシピを見ると、この方式は様々に変化し、味も改良されていることがわかる。
(つづく)