野尻抱介blog

尻Pこと野尻抱介のblogです

猟銃所持の手続き、その3


 猟銃所持シリーズの続きである。タイトルが一貫していないが、これまでの流れは以下の通り。
 その1……狩猟者登録と猟銃所持の手続き開始
 その2……県警本部で猟銃等講習を受けてきた

 昨年11月15日、猟銃等講習を受け、修了証明書を得た。これは要するに学科試験だ。これを壁(1)としよう。
 学科の次は実技教習を受けるのだが、これは簡単には受けられない。理由のひとつは、本人が実包(実弾)を購入し、自宅に保管し、射撃場まで輸送する必要があるためだろう。教習を受ける射撃場で実包を支給してくれれば、もっと簡単になると思うのだが。
 というわけで、実包を持たせる前に教習資格認定申請という壁(2)があり、書類をたくさん作る。教習資格認定申請書、経歴書、診断書、同居親族書、誓約書、住民票、戸籍抄本、身分証明書だ。
 診断書は精神科医に書いてもらわねばならない。警察で該当する病院、医院の一覧表をもらったので近いところから電話してみたが、「うちではやってない」「来週まで先生が来ない」「私もハンターなんですがね、うちでやると設備を全部使うので2~3万かかりますよ。銃砲店で聞いてみては」などと言われた。そこで銃砲店に聞いてみると、なるほど勝手がわかっていて「○○医院なら簡単ですよ。10分ぐらいで書いてくれます」とのこと。これはその通りだった。代金は2800円。
 住民票、戸籍抄本、身分証明書は市役所で、これも簡単に取れる。850円。

 11月21日、教習資格認定書類一式と収入証紙8900円を警察に提出した。取調室に通され、身辺調査の説明を受けた。警察の担当者が自宅を訪れ、周辺住民に聞き込み調査をする。
 想像だが、こんなことを聞いて回るのだろう。
「野尻さんが猟銃を所持しようとしているのですが、粗暴なふるまいをしたり、泥酔して騒ぐようなことはありましたか?」
 いやーん、そんなの絶対いやだー、と思う人も多いだろう。これが壁(3)である。
 私もそう思ったが、すでに覚悟したことだ。最悪なのは、そんな聞き込みを受けたあげく、猟銃を所持できずじまいになることである。近所のおばさんたちに、
「野尻さん、このまえ警察が身辺調査しに来たけど、結局猟銃を持てなかったんですってよ」
と囁かれるだろう。だが私は(いかに怪しい奴であろうとも) 欠格事由をなにひとつ持っていない。正当に猟銃を所持すれば、むしろ警察も認める堅気の人と評価されるだろう。狩猟への偏見がなければの話だが。

 12月5日、市内に別居している母親と同伴のうえ、警察職員二名の訪問を受けた。母には「息子さんが銃猟をすることについてどうお考えですか」と質問し、母は「事故を起こさないかと心配で……」などと消極的な返答をした。幸いにも母は「絶対反対です」とは言わなかった。そう言われたら、親族の理解がないとみなされ、猟銃所持は難しくなる。
 私は初音ミクの壁紙が貼ってあるPCで、アライグマの動画を見せたりした。作家の証として、著書を見せたりもした。
 警察の二人は30分ほど家にいて、それから自治会長に会いたいというので案内した。自治会長は不在だった。隣近所で聞き込みするところは見ていない。

 年が開けて1月7日、身辺調査の結果、欠格事由なしと判断されたので、警察に来てくれという連絡があった。教習資格認定証猟銃用火薬類譲受許可証をもらう。このとき収入証紙で2400円払った。実包を買うにあたっては、保管用の金庫も買ってくださいと言われた。

 三重県の場合、教習は伊賀市にある上野射撃場で受ける。電話してみると年配の男性が出て「教習かあ。あんたが初めてや。秋の試験、何人通った?」と聞かれた。16人である。そのうち空気銃の人は教習を受けない。
「もう少し集まったら教習やりますわ。日程が決まったら連絡しますで」と言われる。電話のあと、教習資格認定証をFAXで送った。

 1月25日、上野射撃場から電話で「射撃教習は2月21日金曜日」と伝えられた。ずいぶん待たされるものだ。学科講習もそうだったが、平日である。勤め人にはハードルが高い。これが壁(4)である。

 2月中旬、銃砲店で実包100発と金庫を買った。実包は12番7.5号。クレー射撃に適したものだ。一箱25発入りで1000円と、わりあい安い。金庫は12000円で、別に特殊なものではない。金庫は木ねじで壁に固定した。

 2月21日、上野射撃場で教習を受けた。午前9時から昼食を挟んで15時頃までかかった。受講者は3人だけで、初心者(今回初めての人)は2人だった。最初は座学で、銃取り扱いの心得や操作、構え方を習う。それから射場に出て、クレー射撃を練習する。
 射台という、白線で囲まれたバッターボックスのような領域があり、実包の装填はこの中でのみ許される。上下二連銃の下側だけに装填する。クレーは射台の正面から前方へ遠ざかる方向に打ち出される。射台は5箇所あり、5発撃つごとに隣の射台に移動する。25発で1ラウンドが終わる。1~3ラウンドが練習で、第4ラウンドが修了テストだ。

 スリングショット猟ではもっぱら静止目標か、泳ぐ鴨のような低速目標が対象だった。飛行中の鴨を仕留めたことは一回しかない。
 今回は最初から移動標的で、クレーの弾道を観察して、その少し先を狙って撃つ。クレーの弾道を銃口でたどり、少し追い越したところで引き金を引く。最初はちっとも当たらなかった。
 撃っても弾道が見えないので、どちらに外れたかわからない。後ろで見ている教官の指示を信じて、悪いところを直すよう努める。
 2ラウンドめになると、いくらか銃に慣れてきた。クレーの軌跡がイメージできるようになってから、ときどき命中するようになった。ラウンドごとの命中数は1,13,5,10だった。修了テストは2発命中すれば合格なので、余裕でクリアできた。教習修了証明書を発行してもらう。
 左は記念にもらったクレーで、直径10cmくらい。石灰とコールタールピッチを混ぜて固めたものだ。直径3.5mmの散弾がまとまった数で当たると、粉々に砕ける。そうなったときは気分爽快だ。
 警察では銃の使用目的として、狩猟だけでなく射撃(クレー射撃など)も勧められた。銃の所持許可は渋るが、所持するとなれば熟練せよ、という態度である。私もそのつもりだ。

 帰途、警察署に寄って猟銃所持許可の申請書類一式をもらった。中身は教習資格認定申請とほぼ同じで、再び写真や戸籍抄本や精神医の診断書を揃え、保管場所も調査される。二度手間もいいところだ。担当の人も「二度手間ですみませんが……」と申し訳なさそうにするので怒るわけにもいかない。前回の身辺調査は所轄署の判断だったが、今回は県警本部の判断を仰ぐという。指示しだいではさらに広い範囲で聞き込み調査をすることもあるそうだ。これが壁(5)である。

 日本の銃刀法は「一銃一許可制」で、銃一丁ごとに所持許可が必要だ。銃本位だから、許可を受ける前に所持する予定の銃を決めなければならない。教習の翌日、銃砲店に行って銃を選んだ。口径12番、銃身長は26インチ、安全性を考えて上下二連にした。対象は鳥でもシカ・イノシシでもいける。国産、ミロク製の中古で5万円だった。モデルガンと大差ない。
 中古なので傷だらけだが、「新銃を山に持ってくと泣きたくなるよ。一日で傷だらけになるから」と店主に言われた。
 店で申請用の書類を作ってもらった。銃を床に置いて写真を撮り、それも書類に添付した。写真はこのとき撮ったものだ。ガンロッカーは3万円ぐらいで、このとき注文した。銃は予約した状態で、許可が出るまで店で保管してもらう。

 今日は診断書や戸籍抄本などを揃えた。明日、警察に提出して所持許可申請をする予定だ。これが壁(6)だ。許可が降りるまで1~2ヶ月かかるのを覚悟してくださいと言われている。
 壁はこれで終わり……だと信じたい。伝え聞くところでは、壁(3)の身辺調査を突破すれば、あとは順調に進むらしい。そうだといいのだが。