野尻抱介blog

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県警本部で猟銃等講習を受けてきた


 前の記事に書いた、公安委員会の主催する落とす気満々の講習会&試験を受けてきた。
 正確には「猟銃等講習・初心者講習」である。「初心者」というのはこの場合「経験者」の対義語だ。初心者はこの資格を取るのが初めての人。3年ごとに所持資格を更新する人は修了試験のない経験者講習を受ける。
 当日、11月15日。狩猟解禁日で平日という、嫌がらせのような日程だ。会場は三重県警本部で、駐車場は使えないので津駅から10分ほど歩いた。自転車でも行ける距離だが、この日は雨だった。
 私がよくスリングショットで鴨撃ちをする安濃川のほとりに、県警本部は居丈高にそびえていた。0840頃、ロビーに入ると臨時の受付ができていて、ビジター徽章を渡され、8階の会議室に案内された。入口に受講者の名前と受講者ナンバーが張り出してあり、指定された席に座る。
他人の本名が丸見えになるところはネットの常識とだいぶ違う。受講者は29名、年齢層は見たところ、10代~60代までさまざまだ。30~50代が中心層か。女性は二名で、うち一名は未成年の射撃競技選手のようだった。


 講習は0900から1500まで。一時間おきに休憩が入る。
 午前中は教本「猟銃等取扱読本」の要点読み上げだった。読み上げられた部分を覚えておけば修了試験は楽勝かというと、断じてそんなことはない
 試験問題はずっとひねくれていて、講習では注意喚起されなかった細かい語義や文言の理解が合否を分ける。ただしこれは三重県の場合だ。出題は都道府県ごとに異なる。

 前の記事に挙げた、日本火薬銃砲商組合連合会(合格させたい側)の出している問題集をみっちりやったほうが近道だろう。アマチュア無線従事者の試験のように一字一句ワンパターンな問題ではないが、どこに目をつけるかの訓練にはなる。たとえばこんな例題がある。
Q:「公安委員会の付する条件や指示処分に従わない場合には所持許可が失効する」○か×か?
A:×。失効ではなく「取り消されることがある」が正しい。
 こんな具合で、所持許可を失う/失わないの問題ではなく、もっと些末な部分がポイントになる。「猟銃」は散弾銃とライフル銃を指し、「猟銃等」になると空気銃を含むなど、ローカルなしきたりもある。
 休憩時間、喫煙所で聞いたところでは二度目の受講という人が多かった。
「前々回はもっと棒読みでしたよ。教本をまるっとそのまま読むだけ」
「あのときは二十何人か受けて、合格者は7人でした」
「それから担当者が変わって、前回から合格率が上がったそうな」
「さすがに顰蹙買ったんですかねえ。合格させる気がなさすぎって」
 ――なんて話が飛び交った。

 正午から1時間は昼休みで、B1Fにある食堂が利用できるという。
 私はこういう一般向きでない食堂が好きなので、写真を撮りまくった。

 選んだのはAランチ、500円である。筍と肉の炒めものがメインで、なかなか美味しかった。

 午後からは猟友会の先生が来て、猟銃の取り扱いを、模擬銃を示しながら教えてくれた。これは経験に裏打ちされた実際的なもので、教本の流れにも沿っていた。
 それから小一時間ほど、また教本の読み上げがあって、1515から修了試験になった。
 出題は四択が20問で、時間は1時間。途中退席は30分経ってから。
 始めてすぐ、鉛筆を持つ手に嫌な汗が滲んできた。これは難しい。問題集と近いパターンのひねくれた出題だが、文言が異なるので始めて取り組むようなものだ。
 誤りがひとつ混じる4つの文の中に「猟銃用火薬類無許可譲受票は社団法人大日本猟友会傘下の都道府県猟友会及びその支部が交付義務を行う」というのがあった。これがあると無許可で普通に実包や火薬類が購入できるという便利グッズだ。
 問題集に「猟銃用火薬類無許可譲受票は社団法人大日本猟友会傘下の都道府県猟友会及びその支部のみが交付義務を行う」という出題があったのを憶えていた。その場合の答えは×で、「特別な事情がある者に限り、例外的に警察署長も行う」と補足されていた。
 ところが今回の問題では「のみ」がない。とすれば間違いではないようだが……?
 首を傾げつつ、これは○とした。ところが他の3つも○のように思えた。さて困った、どれにしよう?
 ――こんな感じで、全問の解答と見直しが終わったときには55分が経過していた。見直し中に解答を改めた箇所もいくつかあった。自信があるのは20問中9問しかなかった。

「あー、これはダメだな。ブロマガで報告しなきゃいけないのに、かっこ悪いなあ…」と思いつつ、会議室内で発表を待った。
 午前中は雨だったが、夕方から晴れてきて、安濃川と伊勢湾がきれいに見渡せた。まあ今回はこの眺めを楽しんだことでよしとしよう、などと自分を慰めた。

 採点には30分ほどかかると聞いたが、45分ほど待たされた。それから生活安全企画課の担当者が現れた。「合格者は16名です。では番号を読み上げます」
 合格率55%。前々回ほど悪くはないようだが、やはり50%台か。そうなるように合格ラインを調整していたのかも、と勘ぐったりする。
「1番○○さん、2番○○さん、4番○○さん」と、ご丁寧に名前まで読まれる。
 私は11番だ。
「9番○○さん、10番○○さん――」
 ああ、連続してる。もうスキップする頃合いじゃないか。そして――
「11番○○さん」
 読まれた。全身の緊張が解けた。
「読まれなかった方はご退席ください」と言われ、会議室の人口密度が半分になった。

 講習修了証明書が配られ、記載されている本籍、住所、氏名を確認する。誤字のある人が二人いた。女性は二名とも合格していた。
 これで解散となり、合格者たちは意気揚々と庁舎を出た。
「いやあ、こんなひねくれた試験は二度と受けたくないですよね」「まったくまったく」「失効したり取り消されないように、大事にしませんとねえ」などと語らいながら駅へと歩いた。

 講習修了証明書は3年間有効である。空気銃の人はこの後すぐに所持許可申請になるが、猟銃の場合は教習資格認定申請を提出し、欠格事由がないか、いろいろ調査される。
 隣近所への聞き込みも行われ「○○さんが猟銃を所持しようとしているがどう思うか」などと、こちらの名前を出して質問するそうだ。以前は名前を伏せて質問していたが、このほうが良いとわかって改めたという。しかし「うわぁ、そんなの絶対やだー」と思う人も多いだろう。匿名性やプライバシーが重視されるネット社会とはかけ離れたセンスだ。
 原則、所持が禁止されている猟銃を持つためには、これぐらいの障壁が必要なのかもしれない。ヤク中やマル暴がショットガンを持っていたら、私だって嫌だ。複雑怪奇な所持許可の段取りには肯ける部分も結構ある。ただ、銃猟から学べるであろう多くのことを、大勢の市民が受け取れずにいることには問題意識を持ちたい。
 欠格事由の調査をパスすると教習用の猟銃用火薬類等譲受許可申請をして実包を購入し、指定の射撃場で射撃教習を受ける。その修了試験に合格し、銃砲店で購入する銃を仮押さえし、自宅には頑丈なガンロッカーを設置して初めて猟銃所持許可申請ができる。
 まだまだ道は長いが、一歩ずつ進めるしかない。