野尻抱介blog

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「ニコニコ狩猟部」、MFT2013に出展


 2013年11月3~4日、お台場の日本科学未来館&TIME24ビルで開催された、Maker Faire Tokyo 2013 に出展してきた。
 これは一般入場が始まる1時間ぐらい前の様子。
 私の展示は「ニコニコ狩猟部」と題した下の3枚。NT京都で展示したものに+αしたものだ。


 写真左の額に入っているのはコガモ♂の風切り羽。「翼鏡」と呼ばれる部位が緑に輝いている。写真中央は鴨類やハシボソガラスの頭骨や脚。右は自作スリングショット。円筒形の物体はくくりわなの模型。

 周囲はエレクトロニクスを駆使し、創意工夫をこらした作品が多い。そんな中でローテクの塊みたいな自分の出展はどうなのだろう――みたいなことは一年ぐらい前から考えているのだが、手応えは充分にあった。
 私の信じるところ、Makerムーブメントとは 技術をもって個を貫く営み である。狩猟や自給自足はこのムーブメントのむしろ本道に位置していると思う。
 立ち止まって興味を示す人の半数は女性であった。まず鳥の頭骨に目を止め、そのかっこよさに惚れ惚れとする。
「どうぞ手に取ってごらんください。壊してもかまいませんから」と言うと、おそるおそるつまみあげる。
「これ本物ですか」
 そう訊く人が多いのに首を傾げていたのだが、しばらくして理由がわかった。会場のあちこちにある3Dプリンタで出力したのかと思うらしい。
「全部こちらのスリングショットで仕留めた本物です」
 そう告げると、皆さん頭の上にいくつか?マークを浮かべる。これが結構おもしろい。
 命中するもんなのか、弾は何を使うのか、合法なのか、肉は美味しいのか、自分でさばけるのか、どうやって回収するのか、ゴムはどこで買うのか、と話が拡がる。
 スリングショットは改良を重ねたものを3つ製作したが、販売はしなかった。自作にはちょうどいい難易度だし、あまり安易に始められるのは不安がある。無免許で使えるとはいえ、殺傷能力のある猟具だから慎重であってほしいし、怪我のひとつやふたつは負う覚悟を要するものだ。
「『スリングショット猟』で検索すればいろいろ文書がでてくるので、読んでみてください」
 と伝えるにとどめた。
 
 今回は展示を見る人が途切れず、なかなか抜け出せなかったのだが、それでも両日一回ずつ持ち場を離れて、ほかの展示を駆け足で見て廻った。簡単に紹介しよう。
 NKHによる「ケミカルカレー」。食品添加物だけでカレーの味を再現するプロジェクト。
 これは普通のカレーの成分を単離して、それを端から混ぜて元に戻すような操作だ。旨味成分のグルタミン酸は重要で、これを加えた段階で、薬品が食品に変わった気がした。詳細はこちら

 このクラスで国内最速の歩行速度を持つというロボット。名前は失念。膝関節部分にショックアブソーバがあり、パッシブに衝撃を吸収している。
 実際に歩く、というか走るところを見せてもらったが、安定感があり、秒速3mぐらい出ているようで感心した。(もっと遅いです、と作者は言っていた)

 Team TAMADASHI のガレージプレーン「立ち乗りくん」
 八谷さんの「メーヴェのようなもの」を思わせるが、こちらは電動で、時速20kmぐらいで低空を飛ぶ予定だという。電動パーソナル航空機は興味深いテーマだ。

 蓄光スクリーンの上に文字の残像を残して走る車。バーサライタに似ている。テーブルや床一面に描けるのが楽しい。

 オシロスコープに投影されたベクターグラフィックスの時計。

 カガクノートによる「エッグランディング・チャレンジ
 3mの高さから卵を割らずに着地させるコンテスト。そういえばモデルロケットでも同じテーマのコンテストがあった。

 クラフト系の人たちのワークショップ。まったりしていい雰囲気だった。

 屋外には電動自動車や水中ロボットが展示されていた。コスプレの人がやけに多いので聞いてみると、MFTや特定のイベントではなく、週末はここがコスプレイヤーのたまり場になっているとのこと。

 前回、MTMがMFTと改称されて科学未来館に移ったときは、「なんだか作品がちんまりしてしまったなあ」と思った。以前の、火を噴いたり爆発したり、レシプロエンジンで動くようなワイルドな展示が消えて、テーブルの上に並べられる小さくて精密で行儀のいいものばかりになってしまった印象がある。
 本国のMaker Faireはテーブルも使うが、出展者ごとにエリアが割り当てられて、もっと大きなものが展示されていた。科学未来館はセキュリティのための規制もうるさくて、今回はヒゲキタさんのエアドームが出展中止になったりした。
 そんな流れを見てちょっと暗澹としていたのだが、蓋を開けてみれば、やんちゃな展示、大きな作品もたくさんあり、TIME24ビル側の展示も充分な人出があって、楽しく、刺激にとんだ二日間だった。技術力も5年前とは格段に向上していて、「もう個人に作れないものなど何もない。未来はこの線上にある」という思いを新たにしたものだ。