野尻抱介blog

尻Pこと野尻抱介のblogです

月の水、ふたたび

http://moon.jaxa.jp/ja/blog/index.php?itemid=139
 興味深いニュースがとびこんできた。月で水資源が得られるなら、人類の宇宙進出において、大きな足掛かりになる。そのことは『ロケットガール3 私と月につきあって』で気合いを入れて語った。そこで描いたのは月に衝突した彗星の水蒸気が極地クレーターの永久影に体積している、というものだったが、これはかぐやの観測で否定されている。あのようは氷原はないと思っていいだろう。
 だが今回の発表は、それとはまったく異なる原理で生じた水だ。
 レゴリス(月土壌)の比重は代表的な値で3.1、ただし空隙などを込みにした「かさ密度」は1.5ぐらい。(文献 http://stage.tksc.jaxa.jp/library/report/files/RM-05-003.pdf)
 かさ密度で考えると、1トンのレゴリスは1.5m^3。1リットルの水を得るのに1.67m^3のレゴリスが要る。深さ3mmで採掘したとすると556m^2、ざっと24m四方の土地があればよい。
 水は太陽から吹き寄せる水素イオンとレゴリスの酸化物が衝突して発生する。水は月の一日(一か月)ごとに生成されるから、新鮮な酸化物(レゴリス)を運んでくれば、同じ場所で繰り返し採掘できる。
 アポロLMの上昇段のように、月面から月周回軌道まで戻る飛行を考えると、デルタVは1.68km/s。水を水素と酸素に分解して燃料にして、比推力450秒のエンジンを使ったとすると、構造効率は0.68。月面から1トンの物資を運ぶのに470kgの燃料(酸化剤+推進剤)が必要になる。これは511m四方のレゴリスから製造できることになる。重力損失その他のロスは考慮していない。
 月から地球までのデルタVはその約半分の0.86km/sで、総重量の2割が燃料になると思えばいい。地球大気で減速して遠地点を下げ、800kgがISSにドッキングできることになる。
 このように月から月の外に物資を運ぶのは、地球発にくらべて格段にたやすい。月に水源があれば、月面上の資源だけで自活できるし、ISSへの補給や太陽系各地への発進基地にもなりうる。

 だが、最初にリンクしたblog編集者のテラキンさんは懐疑的なスタンスで見守っているようだ。Twitterで松浦さんも述べていたが、アメリカの月計画に合わせたお手盛りの発表かもしれない。宇宙開発ではこうした駆け引きがよくあるので、踊るのはまだ早い。

 とりあえず、太陽風のよく当たる場所で実験してみてはどうだろうか。ISSか、それがだめなら静止トランスファー軌道あたりで、レゴリス・シミュラント(レゴリスの模造品)を日にさらしてみる。それを電気炉等で加熱して水蒸気が出るかどうか調べれば、この観測の妥当性が判定できるだろう。

私と月につきあって―ロケットガール〈3〉 (富士見ファンタジア文庫)

私と月につきあって―ロケットガール〈3〉 (富士見ファンタジア文庫)