野尻抱介blog

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間宮さんのプラモデルと羊羹


 日本海軍の給糧艦「間宮」のことを知ったのは艦これを始めてからだ。私は太平洋戦争での日本軍が嫌いだから、知識も薄い。なぜ嫌いかと言えば、理由はたくさんあるが、兵を飢えさせたことが大きい。人は飢えると簡単に獣になってしまい、戦争どころではなくなる。
 海軍の兵士が飢えたという話はあまり聞かないが、輸送船の海上護衛に十分な戦力を割かなかった点では同罪だろう。だが、「間宮」という立派な給糧艦を大正時代から用意していたと知って、日本海軍の評価はやや持ち直した。

 兵器に興味を持ったら、とりあえずプラモデルを作ってみるのが私の流儀だ。
 艦これを始めて一年あまりで、日本海軍艦のモデルは8隻になった。写真右は手前から間宮、空母赤城、工作艦明石である。食っちゃ寝の赤城さんを明石と間宮が世話している構図だ。

 艦これブームのおかげで、レジンキットしかなかった間宮は、ピットロードとアオシマからインジェクション・キットで発売されることになった。アオシマのはまだ発売されていず、今回制作したのはピットロードのものだ。
 これはフルハルモデルで、喫水下まで一体成形されている。私はウォーターラインで統一しているので、そのように改造した。この工作はちょっと難しいので、不慣れな人はアオシマ版を待ったほうがいいかもしれない。

 間宮の全長は文献によって異なる。Wikipediaでは130m、『特務艦艇入門』(大内健二)では144.8m、今回制作したピットロード1/700モデルの資料では149.1m。基準排水量は約15000トンで、リバティ船よりひとまわり大きい。排水量では軽巡2~3隻ぶんになる。
 この大きな船の内部がみっしり食糧庫や食品加工工場になっていたというから壮観だ。各種菓子類、豆腐、こんにゃく、羊羹、最中、アイスクリーム、ラムネまで製造したという。一回に運べる食糧で18000人(『特務艦艇入門』では1800人)の将兵を3週間養える。他に通信監視施設や病院施設も備えていた。
 外地の兵士からも愛され、泊地に入港すると「間宮が来たぞー」という歓声が上がったという。左はプラモデルの箱絵だが、周囲の艦からわらわらとカッターや内火艇が集まってくる様子が微笑ましい。
 艦これでは艦娘の疲労回復、士気向上に召喚され、やはり愛されている。割烹着姿の豊満なおねえさんだ。



 さて、プラモデルが完成したところで、間宮の偉大さをさらに多角的に探求するため、その食品製造業務を追体験しよう、と思い立った。看板メニューの羊羹を作ってみたのである。
 皆さんは羊羹を作ったことがあるだろうか? 私は今回が初めてで、製法もクックパッドで検索して知った。あれは要するに、濃厚な寒天菓子なのだ。
 小豆(あずき)を400g、トータル2時間くらいかけて煮る。
 柔らかくなったら、目の細かいふるいのようなもので裏ごしする。この裏ごし作業が結構な肉体労働で、間宮では機械化されていたはずだ。裏ごしは普通の料理ではあまり使わず、材料の使い方もぜいたくだから、一般艦艇に専用の装置は搭載されなかったのではなかろうか。
 なお、写真でわかるとおり、私は裏ごし器を上下逆に使っていた。
 ちなみに「小倉/こしあん戦争」においては、私はこしあん軍に属する者だ。三重県民の誇り、赤福こしあんである。小倉など、工程を省略して不純物を残したこしあんにすぎない。

 濾した小豆に砂糖350gを加え、加熱しながら練る。これでこしあんが完成した。
 ほくほくといい匂いがする。うちの近所にある井村屋本社工場から漂ってくる匂いだ。

 棒寒天をちぎって水に入れ、加熱して溶かす。これは羊羹を固形化する材料だ。
 これにこしあんを入れ、加熱しながらしばらく練る。均質にまざったところで火を止めた。

 アルマイトの弁当箱に流し込んで放置し、粗熱を取った。さらに冷蔵庫で冷やしたが、常温でも固まるはずだ。
 一時間ほど待って取り出し、弁当箱をゆがませて四周に空気を入れ、皿に伏せて揺すると…

 ご覧の通り、ボリューム満点の羊羹ブロックが現れた。
 砂糖を控えめにしたせいか柔らかくて、水羊羹のような食感だ。できたてなので小豆の香りが豊かなのがうれしい。
 もう少し砂糖を増やせば、市販の羊羹らしくなるのではなかろうか。

 なお、これは「羊羹製造の追体験」であって「間宮羊羹の再現」ではない。「これと基本的に同じプロセスを、間宮は一日何千~何万という単位でこなしていたのだな」と思いをはせるだけである。
 Togetterのまとめ「いわゆる『間宮アイス』のレシピは『海軍アイス』のレシピだった?」にある通り、間宮のレシピはよくわかっていないようだ。

 間宮レシピとしてはっきりしているのは、同人誌『提督の食卓』(有馬桓次郎)に掲載されている「豚肉の信田巻」だ。ただしこれは第一艦隊献立調理特別努力週間なるコンテストに出品されたもので、通常のメニューとは区別して考えなければならない。一個ずつ薄揚げで巻くため、量産向きではなさそうだ。

 脱線するが『提督の食卓』シリーズはミリメシ・海軍料理好きにはまことにありがたい本だ。さっそく「金剛のフィッシュフライ」を作ってみたりしている。
 何事もストーリーを持つことはいいスパイスになる。
 料理として出来が悪くても、さすが英国生まれの帰国子女、金剛さんですネー、と思えば食も進むというものだ。