野尻抱介blog

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zabadak的に、核分裂はやるせなさエネルギーの発散である――『いちから聞きたい放射線のほんとう』


 福島の原発事故のあと、どう生きたらいいのか、考える材料をくれる本ができたので紹介しよう。執筆者とちょっぴり縁があるので宣伝して恩も売りたい。
 この本を書いたのは物理学者の菊池誠さん、ミュージシャン(zabadak)の小峰公子さん、漫画家のおかざき真理さん。GCM/ガイガーカウンターミーティングというイベントでご一緒した、とても魅力的な人たちだ。

 2011年6月に行なわれたGCM1のあと、おかざき真理さんの描いたお母さんのためのGCM講座体験談が、にぎやかでカオスなイベントの雰囲気を楽しく伝えている。
『いちから聞きたい~』では、下のような挿絵や漫画を描かれている。押しつけがましい主張がまったくない、純粋なアートである。描線の美しさ、キャラクターのエロチシズムが素晴らしい。
 原発事故関連の本は、その災害にかこつけて著者の思想を訴えるものが多いが、この本では誰も、何も主張しない。理解したいという気持ちがあるだけだ。
 私はといえば、放射線オタクなので、被災者の方には申し訳ないが、この原発事故にはもっぱら好奇心で向き合っている>このへん参照のこと。だから思想的な主張のある本は苦手だ。その点、この本はとてもすがすがしい。





 菊池さんと小峰さんが郡山の開成山公園で放射線測定をしているところ。
 2012年7月の、GCM2のときに撮影したのだが、「zabadakのジャケ絵になりそうな感じだなあ」と思いながら撮ったのだった。

 こちらはピンぼけだったので、油彩アート風に加工してみた。小峰さんに「zabadakぽいですか?」と聞いたら「うん、zabadakぽい!」という返事をもらった。
 小峰さんは郡山に実家があって、GCMではネイティブの訛りを使った詩を朗読してくれた。それも押しつけがましいところがまったくない、ただ郷土への思いをうたった詩だった。


 『いちから聞きたい~』の本文は、菊池さんと小峰さんの対話でできている。
 菊池さんが先生役、小峰さんが生徒役なのだが、小峰さんはマイペースで、ときどき斜め上なことを口走る
提題の「やるせなさエネルギー」など、冒頭から絶好調だ。やはりzabadakは自然界・人間界のとらえ方がひと味違う。
 菊池さんの話で重要なところは強調書体になっているが、そうでないところにも随所に含蓄がある。「被ばくだけがリスクじゃないからね」みたいな、言葉の端々がわりと大切で、それを積み上げていくうちに理解が深まる感じだ。
 本書は放射線の理解から始まって、事故後の世界で生きていくうえで、まず知りたいことがひととおり出てくる。目次は下記リンクのAmazonのページに載っている。
 あくまで初心者向けの本だから、これ一冊で万全というわけではない。はじめに述べたとおり、どう生きたらいいのかを考える材料をくれる、美しく、かわいらしく装丁された本だ。

Amazon:いちから聞きたい放射線のほんとう: いま知っておきたい22の話


 放射線を学ぶ、もう少し詳しい本としては下記が定番だ。この本を理解すれば、電卓を叩いてリスクを算定できるぐらいになれる。この本はパブリックドメインになっていて、こちらから無料でダウンロードできる。私もほんのちょっぴりだが、校正をお手伝いした。私は「注釈が多すぎる。言いたいことは本文で述べるべき」と述べたのだが、田崎さんは自分のスタイルを貫いたのだった。だから注釈が多すぎると感じても、私のせいではない。

Amazon:やっかいな放射線と向き合って暮らしていくための基礎知識