野尻抱介blog

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東京ディズニーシー観察会レポート


 過日のこと、超会議2に参加したニコニコ技術部メンバーで、「次回どうしよう? 超会議3における技術部ブースはどうあるべきか?」という話をしていたのがきっかけだった。
 来場者を参加させて楽しませる、というあたりから超会議、文化祭、ディズニーランドという三題噺になって、じゃあディズニーランドを技術部視点で観察に行こう、ということになった。
 ディズニーのアニメーションは昔から大好きである。ただし『きつねと猟犬』あたりで心が離れ、近年のCG作品もほとんど観ていない。
 ランドもシーも行ったことがなかった。行けば楽しめるのはわかっていたが、楽しいとわかっていると先送りするたちである。今回の観察会はいい機会だった。そしてやはり、行ってみないとわからないこともあった。
 希望者多数により東京ディズニーシーに行くことになった。総勢14名で、あさぎ、いよかん、verde氏がリーダーになり、3班に分かれて行動した。綿密に下調べし、精力的に場内をまわって解説してくれたリーダーの三氏に感謝したい。

 観察会のあと、好きな媒体を使ってレポートを提出する決まりになっている。以下がそのレポートである。一般のブロマガ読者向けには書いていない。アトラクション等の記述にネタバレがあるので注意されたい。

 メンバーのレポート一覧はこちら> TDSの感想文リンク集


東京ディズニーシー観察会レポート

●総論

 最も心が動いたのは、ゲートをくぐった直後に味わった、外界との遮断である。正面に火山がそびえ、外界で見えるのは空と東京湾と航空機とスカイツリーぐらいだ。
 園内は数カ所のゾーンからできているが、隣接しながらこれもきれいに分離していて境界をまたぐと雰囲気が一変する。
 これぐらい徹底して初めて、夢の国は存在できるのだ、と感じ入ったことである。

 ディズニーシー(おそらくランドも)はディズニーのアニメーション世界を地上に再現するという強固な意志のもと、徹底的に作り込まれた施設である。アニメーションと同じく、空想世界でゲストを楽しませることを第一としている。
 実写ではなくアニメーションがベースであるゆえ、施設も作り物ぽさが意図的に与えられている。

 こうした中央集権的・統一的な設計思想は、カオスを旨とするニコニコ超会議とは対立するものだ。しかし超会議とて「ニコニコ動画のすべてを(だいたい)地上に再現」というポリシーがあるので、そこにひとつの一貫性は必要だろう。ニコニコらしさというものは、確かにあるのだから。
 たとえば「時報のときは全員その場で動きを止める」ルールを作ったらどうだろう? 動かしていいのは口だけで「時報うぜえ!バカヤロー」と叫ぶのである。
 さらに高度な手法としては、ねらったカラーを自己組織化・自然発生させることである。来場者にある欲求を喚起させ、自発的に行動させることで実現する。たとえば来場者の多くが簡単なコスプレをしたくなるようで、脳波ネコミミやテレビちゃんアンテナがよく売れたことなどがそれに近い。

 ディズニーシーでは(愛煙家は別として)食事もトイレも休憩場所も不自由せず、快適であった。それはネット越しにニコニコ動画を使っているユーザーも同じだろう。
 超会議のアメニティはまだまだ不足で、まともな食事ができないし、休憩場所も少ない。移動式の屋台が常時巡回するとかできないものだろうか。

●環境、施設ほか

・モノレールの窓や吊革がネズミ型で、始まった感がある。ディズニーシー駅からの眺めも計算されており、ゲート前の街並みが一望できる。

・入場券を事前に買っていたので、すぐに入れた。手荷物検査も一瞬で終わった。

・入場すると、外の景色がほとんど見えないので場内の世界観に入りやすい。作り物だと知っていても「この嘘を信じよう」という気になる。

・映画セットの技術を使ったと聞いたが、そのせいか施設はどこを切り出してもフォトジェニックである。カラフルではあるが原色を使わず、落ち着いたトーンで仕上げられ、うまくウェザリングしてある。写真写りがいいことはマスメディアや口コミでの広告に寄与するだろう。ゲスト自身も嬉しいにちがいない。背景が美しければ、自分もあやかれるというものだ。

・橋など、坂道は結構ある。車椅子ではつらいかもしれないが、難儀していたらキャストが押してくれるのだろう。


・カストーディアル(清掃員)がトイブルーム(箒)に水をつけてミッキーマウスを描いていた。初めて見た人は感激するだろう。清掃員にまで娯楽を担わせる姿勢は徹底している。

・ゾーンの切り替えが巧みである。橋、木立、トンネルなどのギャップ領域を通過すると景色と背景音が一変する。手すりなど、細部までゾーンごとの特色が表現されている。同時に、一定の作り物っぽさも残されている。実物ではなくディズニーアニメ世界の再現であることが伝わってくる。

・随所に隠れ場所的なコーナーがあり、人通りは少ないが、ちょっと注意すれば気がつくようになっている。「自分で発見した」感が味わえる。

・花壇や街路樹などの植生がよく手入れされている。倒壊する恐れのある樹木はステーで補強されている。

・喫煙者の救済など最小限でいい、というポリシーなのだろう。異議を唱えるつもりもないが、喫煙所が少なく、窓のないアヘン窟のような部屋で、喫煙者にはつらい夢の国であった。


・外輪式の蒸気船、トランジットスチーマー・ラインに乗った。20分程度の待ち時間で乗れて園内を水上から眺められて楽しかった。


・エレクトリック・レールウェイにも乗った。スチーマーラインと同様の楽しさがあった。

・着ぐるみのキャラクターとときどき遭遇した。ホスピタリティ抜群で、来場者は写真を撮るなど、無邪気に交流しており、感激している人も少なくなかった。

・食事について。カスバ・フードコートのカレーセット、ノーチラス・ギャレーのターキーレッグとビール、バーナクル・ビルズのポークリブとビールなどを食した。どれもセルフサービスで能率的なかわり、これというもてなしはなく、客どうしで勝手に楽しめという印象であった。料理の質は平凡でやや割高、飽きる味だった。

●ショー

・スプリングタイム・サプライズ
 ニコ厨の感覚では、ミッキーマウスはネタにしたら速攻で削除される恐怖の大王なのだが、生でその着ぐるみが踊るのを見るとテンションが上がった。前座のアイスブレーキング、奇術の演出、着ぐるみキャラのダンスもキレキレで見事であった。インフレータブルで開く花のセットも良い。
 観客は思ったほど湧かず、おとなしく観ていた。
 春が来た、がテーマなのだが、梅雨入りしてからやるのは季節感覚がずれていて、日本向きではない。


・レジェンド・オブ・ミシカ
 メディテレーニアン・ハーバーで行われる昼の目玉ショー。大掛かりな伸展機構を持った台船、水上バイクを使ったダイナミックな演出など、圧巻であった。
 ディズニーリゾートのショーは特別な日しか観られないのかと思っていたが、毎日これをやっているのだからすごい。
 このショーは、全周から観覧できるようにデザインされており、全員というわけではないが、ゲストが心をひとつにする感覚があった。多人数が観られるぶん、費用対効果も大きい。

 帆船の船尾にコスチュームを着た手話通訳のキャストがおり、台詞や歌詞を逐一伝えていた。当然といえばそれまでだが、これは善良なサービスであり、聴覚障害のないゲストにも善意を伝染させ、安心感を与えていた。

ファンタズミック
 夜の目玉ショーである。伸展式の塔が中央に建ち、ニコファーレのLED壁のように映像を映す。フォグスクリーンやレーザービーム、花火も駆使してよく盛り上がり、興奮した。


・ショーに限らないが、音響はスピーカーを分散配置して、個々の音量は小さく、ローカライズされている。超会議でも応用できそうである。
 スピーカーは植木の中に擬装されたり、ショーのときだけ伸展するものがある。(左写真)


・ショーを見に行くと、慣れた人が先に来て場所取りをしている。「ああ、リピーターの人なんだな。このショーが好きなんだな」とわかること自体が、期待感を高めることに一役買っている。

・屋外のショーは地べたに座ったり、適当な場所に立って眺めたりで、くだけた感じが良かった。

●アトラクション
・シンドバッド・ストーリーブック・ヴォヤッジ
「不人気なのですぐ乗れますよ」ということで乗ったのだが、乗ったなかではこれが一番楽しかった。元のアニメ映画を全力で実体化したところがMakerマインドに響いた。
オーディオアニマトロニクスの動きが見事で、歌もディズニーらしく盛り上がる。

・マーメイドラグーン・シアター
 天井に複雑なホイストがあり、宙吊りになった人魚や魚を三次元で移動させる。ホイストの機敏で滑らかな動きばかり見てしまった。もちろん水中での魚類の動きには及ばないが、それを空中でやっている、という作り物感覚が良い。人魚アリエルはお父さんに嬉しいコスチューム。魔女?の巨大な掌もいい出来だった。


・海底2万マイル
 見どころは乗り物よりも待機列のセットで、スチームパンク風によく作り込まれていて、まったく退屈しなかった。
 乗り物はシンプルだが水中の雰囲気がよく出ていた。ゲストが操作できるサーチライトが楽しい。


タワー・オブ・テラー
 こちらも待機列のセットが大掛かりで面白く、ホラーの物語に観客を組み入れていく仕掛けになっている。
 乗り物は単純な垂直昇降の絶叫マシンで、暗闇の中でGだけを体感させておき、一瞬、割れ窓から外の実景を見せる、アイデア一発勝負である。普通の絶叫マシンなら高所からの眺望が継続するものだが、ここではほんの一瞬で、そのためにあのタワーを建てたのかと思うと、つくづく贅沢なアトラクションである。
 ゲストに絶叫させておいてから、そうと知らせずに集合写真を撮るのだが、リピーターはここでポーズを取ったりする。リピーターに優越感を持たせる仕掛けと言えようか。


タートル・トーク
 豪華客船の喫水下の展望窓、という設定のスクリーン越しに、ゲストとウミガメが対話する。ウミガメの声は人間が演じ、CGのウミガメもリアルタイムで反応する。
 ウミガメ声優の話術、客いじりが見事で、抱腹絶倒してしまう。これを一日中やっているのだから、声優やCGオペレーターも交代で担当するのだろう。「ミクさん召還部」も負けてはいられない。


レポートはここまで。