2016年7月22日、1F(福島第一原発)視察ツアーに参加してきた。GCM(ガイガーカウンター・ミーティング)、GCM2に続き、八谷和彦さんから声を掛けてもらった。ツアー参加者もGCMのメンバーとかなり重なっているが、今回、中心になって動いてくれたのは開沼博さんとzabadakの小峰公子さんである。
結果、こんな参加者になった。
漫画家 しりあがり寿、鈴木みそ、芳賀由香
物理学者 菊池誠
アーティスト・芸大教授 八谷和彦
元農水省のひと 原田英男
音楽・舞台関係 白崎映美、近藤達郎、内田ken太郎、熊谷太輔、小峰公子、村上亜紀子(舞台美術)、望月秀城(ソニー・ミュージックエンターテイメント)
ライター 橋本麻里、しかのつかさ
作家 野尻抱介、木村友祐
なんだか暗い話である。子供の頃は親に虐待され、結婚してからは夫のDVを受けていた主婦が、家出して原発事故の警戒区域内にある「希望の砦」へボランティアに行く。
希望の砦というのは被曝牛を集めて飼育している牧場で、実在のモデルがある。この運動にはいろいろ問題があるように思うが、作中では善し悪しを語らず、そこに集う人と牛のありさまが淡々と描かれている。
出口の見つからないままに終る物語かと思いきや、不意打ちのように、主人公が吹っ切れる瞬間が訪れる。それはぐさりと刺さり、あるカタルシスも覚えたが、うまく言葉にならなかった。
あれはなんなんだろうな、と思いながら、7月20日、軽自動車を運転して出発した。深夜に大洗に着き、そこで車中泊し、翌日いわきに入った。1F視察の前日である。
その日の宵、いわき駅前のライブハウス、クイーンで視察メンバーによるライブがあった。
早めに来て道端で煙草を吸っていると、マイクロバスが止まり、作業服の男が二、三人降りて、近くのホテルに入っていった。そんな場面を二度見かけた。後で聞いたところでは、原発作業員だということだった。ひと頃よりは減ったが、今もいわきは1F廃炉作業の前線基地であるようだ。
19時、zabadak 白崎映美&東北6県ろ~るショー 北川玉奴 ライブが始まった。
zabadakは7月3日に吉良知彦が死去したばかりで、小峰さんがメインボーカルをつとめた。
アコーデオンで弾き語る「星ぬ浜」から「遠い音楽」へ入ったあたりでうるっときた。小峰さんも決壊しかけていたが、気丈に歌いきった。この分野は詳しくないが、琉球や東北民謡を織り込んだ曲が染み入った。
北川玉奴はアコースティック・ギターの弾き語りで、原発作業員の知人から聞いたという日常をペーソス豊かに歌った。Jヴィレッジから1Fに向かう国道6号線の情景を歌った「ルート6」がリアリズムであった。私も今回、国道6号を南相馬まで走りたくてマイカーで来たのだった。
そして白崎映美&東北6県ろ~るショーである。
赤いギリースーツのような衣装をまとったナマハゲが、マイクを握って吠え始めた。
ナマハゲは客席を練り歩き、私のカメラに噛みついてきた。こういう場所でカメラを使うことがどうなのか知らないが、私はこの事態を世界に伝えねばと、ロバート・キャパのようにシャッターを切り続けた。
赤いナマハゲ、白崎映美は「東北人は暗い… 暗い…」とつぶやくなり「cry baby !!!!」と絶叫した。
その声にひっ叩たかれるようにして、私の中で歌とあの暗い小説『聖地Cs』がひとつになった。東北人には「まつろわぬ民」の血が流れており、その爆発力をずっと心に宿しているのだ。
エンディングは客席を巻き込んだ『丘を越えて』の狂騒的な斉唱になった。
zabadak、北川玉奴が加わり、しりあがり寿さんまで引っ張り上げられて跳ねまわった。
ライブ終了後、メンバーはいわき湯本のこいと旅館に移動し、温泉街の居酒屋で飲んだ。隣にかわいらしい眼鏡っ娘が来て喜んでいると、この人がさっきの赤いナマハゲだと教えられて驚愕した。2013年に活動を停止した上々颱風のボーカルの人でもある。
そこで初めて知ったのだが、白崎映美は木村友祐の『イサの氾濫』を読んだのがきっかけで東北6県ろ~るショーを始めたのだった。そのアルバム『まづろわぬ民』にも木村本人による『イサの氾濫』の朗読が収録されている。
そういう予備知識を持たずに、ライブで歌と小説が結びついたのは、両者の表現力が半端ないからだ。
「あー、やっぱり東北の人は怒ってるんだなあ。そりゃ怒るよなあ」――と、当たり前のことを、宴会がお開きになってからもつらつら考えていた。
ネット上で「福島の人はもっと怒っていい」と述べたこともあるが、自分は外の人だから、立ち入ったことは言えない。それゆえ私は震災直後から、自分本位、人でなしの態度を貫いてきた。「人でなし」については語弊を生みやすいが、真意はここやここに書いた。
よけいなお節介をしないかわり、現地の人の気持ちにも立ち入らずにきたが、この日のライブで、いくらかつかめた気がした。というか、情念の奔流を浴びた。
東北6県ろ~るショーが体現しているのは単なる怒りではない。怒るのも笑うのも泣くのも、俺らの気持ちを貫け、まつろわずに生きろ、と訴えている。
「おめえら、その気持ち、どうやって表したらいいか、わかんねえが? だったらおらといっしょに来い、こうやって歌え! 踊れ!」と手を振り回している。そんなライブだった。
(その2 Jヴィレッジ&1F編 につづく)