野尻抱介blog

尻Pこと野尻抱介のblogです

尖閣諸島ASW・補足編

 下記動画やblogへのコメントから、いくつか補足したいことがでてきた。特に、あまりにマゾゲーすぎて到底プレイできないと思われるのは本意ではない。動画には演出というものがあるわけだが、実際はあんな大変なゲームではない。
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(1) Harpoon4を始めるには
 Harpoon4やサプリメントSea of Dragonsは直接CoAのサイトからPayPalで購入できる。
 国内ではクロノノーツ/Clash of Armsから購入できる。同サイトの和訳アーカイブに全文和訳したDOCファイルもあるから、英文ルールブックを読むのは確認のときだけでよい。
 艦船リファレンスシートは基本セット付属のシートをコピーするが、PDFがCoAのサイトからダウンロードできるので、それを印刷してもよい。

 作図の器具だが、別に米海軍の製図器を入手したり海図台を作る必要はない。せまい場所でやるならJW-CAD(フリーの製図CAD)などを使って、PC上で作図してもいいだろう。
 だが、広いマップで全体を一望しながら作戦を練る楽しさは格別だ。手軽にやるなら適当なテーブルにマップをマスキングテープで貼り、透明オーバーレイを三面鏡のように左右に強力テープで貼ればいいだろう。私は最初、そうしていた。
 マップは白ボール紙で、全紙サイズを二等分する。透明オーバーレイはなんでもいいが、私はA1サイズの硬質カードケース(1400円程度)から切り出した。一枚のカードケースから2枚のシートができる。
 ペンはアルコール系溶剤の「ゼブラ・マッキー極細」がおすすめだ。消すときはティッシュやフェルトにアルコールを含ませて拭き取る。跡形もなく消えるのでオーバーレイは何度でも使える。
 あとは定規と分度器、コンパスがあればOKだ。次に述べる井上式三角定規がいいかもしれない。

(2) 製図器や航法計算盤を揃えるなら
 左は米海軍タイコンデロガ級イージス艦の海図台だ。第二次世界大戦の頃から、米海軍はこの製図器を使っているらしい。CICは電子化されているが、ブリッジでは今でも紙の海図を使うようだ。私は中古のものをebayで$20で落札した。ただし送料に$70ほどかかるので、トータル8000円ぐらいの出費になった。検索ワードはnavy parallel motion protractorだ。

 アーム式の製図器は中間ターン(30分単位)の大きな移動の作図にはまことに便利だが、ソノブイを使った位置局限の場面になると少々もてあます。
 これは動画で「現職」らしき人からコメントで教えられたのだが、海上自衛隊では平行移動分度器を使っていない。DRT(航跡作図装置)、ディバイダと井上式三角定規を使うそうだ。以前見学した掃海艦くらまの海図台の写真を見直してみると、確かにその通りだった。

さっそくAmazonで井上式三角定規を購入してみた。最長辺で40cm以上ある大きさに驚いた。外周は分度器になっていて、さらに目標の見え方から距離を得るなど、ノモグラムを使った計算機能がついている。私は計算尺のようなアナログ式計算器が好きなので、気に入ってしまった。
 小学校で習ったと思うが、三角定規で平行線を引くには、写真のようにする。海図に印刷されているコンパスローズから艦の位置まで方位を運んでくれば、平行移動分度器は必要ない。
 E6B航法計算盤は「現職」氏によれば「電測員でこれが許されるのは一等海士ぐらいまで」だそうである(笑)。そもそも航空機用のものだから、艦船では使わないと思っていたのだが。しかしHarpoon4のプレイにはとても便利だ。ヘリの航法はもちろん、潜水艦の移動でも役立つ。艦船では速度の目盛りを一桁小さく読む。
 航法計算盤の裏は偏流計算をするようになっていて、220度の黒潮0.9ktに対して対水速度6ktで170度に進むときの対地速度は?というような問題が簡単に解ける。Harpoon4で潜水艦は7kt以上出すとパッシブ探知される距離が倍になるし、6kt以上だとバッテリー放電率が倍になる。そこで5ktで進むわけだが、海流に乗れば5.9kt、逆らえば4.1ktだから3割も違ってくる。無視できる数字ではない。
 E6Bはebayで買うと送料込みでも2000円〜1万円ぐらいで入手できる。新品は自家用飛行機用のものが数千円〜3万円程度で、国内でも買える。
 上の写真の三角定規の隣に写っているのは、ebayで買った学生用の安価なものだ。ベクターカード(短冊状のカード)が原点まで載っているので、艦船の速度域をフルカバーしている。これなら護衛艦にヘリを発着させるときの針路も簡単に計算できる。

(3) シナリオは海自に甘いか?/事前に情報が得られるか?
 ネットには「海上自衛隊は世界一ィィィィ」「中国なんかやっつけろー」と息巻く人がよくいるが、今回のシミュレーションでそんな人を応援するつもりは毛頭ない。動画がそんなコメントで溢れるのを覚悟していたが、冷静で中立的なコメントがほとんどだったのは喜ばしいことだ。
 前のエントリで述べたとおり、今回の陣容で海自が魚釣島をガードできるのは4時間くらいと見ている。「キロ級が魚釣島に接近中」という事前情報がない場合は24時間やるだけで、することは変わらない。せっかくの数字が出せるシミュレーションだから、最小要素で実験して外挿すればいいわけで、意図として「海自に甘い」のではない。24時間ヘリ哨戒を維持するのは、いまの海自にはかなり厳しいのではないだろうか。

 漢級原子力潜水艦領海侵犯事件のときは米軍が先に追跡していて、海自が引き継いだようだ。海自はASWに成功してほとんどの時間でコンタクトを保ったから立派なものだ。ただし漢級はHarpoon4の資料では「Noisy」で、キロ級の4倍もの距離から探知されてしまうから、これをもって自信過剰になるのはよくない。発展著しい中国海軍で、いつまでもこんな潜水艦は使っていないだろう。
 米軍は南西諸島にもSOSUS(固定パッシブソナー・アレイ)を設置しているといわれている。1981年刊行の『別冊サイエンス 最新兵器と軍備管理』の図を見ると、尖閣諸島からミンダナオ島の東までSOSUS水中局が並んでいる。衛星での出入港監視などと組み合わせれば、米軍から情報がもたらされるのはありそうなことだと思う。
 「アクティブで探知してたら近づけっこないじゃん」と、わかりきったように言う人もいるが、「キロ級の浸透はASWでは防げない」と思っていた人も少なくないのではないだろうか。少なくとも私はそうだった。海自がキロ級をアクティブ探知する方針を打ち出したのは最近のことだ>中日新聞/中国潜水艦を常時監視 海自新戦略
 もちろん、今回のシミュレーションは市販ゲームと兵器の推定データによる素人判断にすぎない。だがこのプロセスには不透明な部分がなく、結果に至る経緯はすべて説明できる。誤っていたならどこで間違ったかがわかる。動画やblogで発表する価値があると思ったのはそのためだ。

(4) たかなみ特製カレーはうまいか?
 海上自衛隊の全艦艇は金曜日にカレーを食べる伝統がある。曜日を思い出させる効果があるそうだ。横須賀や岩国ではこれを海軍カレーとして名物にしている。
 海上自衛隊は公式ウェブサイトで各艦のレシピを公開している。旧海軍の頃は「肉じゃがをカレー化したもの」だったようだが、現在では個艦ごとにレシピが異なる。それゆえ「たかなみのカレーはうまい」というような話が出てくるわけだ。
 たかなみ特製カレータモリ倶楽部で紹介されたのでご存知かもしれない。キーマカレーをベースにしたもので、ブルーベリージャムが隠し味になっている。
 私も作ってみたが、なかなかうまい。ただしデミグラスソース缶のメーカーが特定できないので、再現度は確信できない。ちなみにハインツのを使った。ブルーベリージャムは結構効くので入れすぎに注意しよう。
 盛りつけで牛乳とフルーツもしくはサラダをつけるとそれっぽくなる。下士官食堂ではステンレスのメストレイを使うが、新品はちょっとお高い>メストレイ 抗菌ステンレス。もしかすると士官食堂の食器より高いかもしれない。
 私はハープーンをプレイするとき、海軍カレーを作ることがよくある。基本的にごっこ遊びだからこうした演出は重要だ。それになんといっても、空腹をこらえてできるゲームではない。



ウチダ 井上式三角定規 35cm×3mm 014-0055

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ウチダ KD型製図器 海図用デバイダー SEタイプ 011-0011

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自分でつくるうまい!海軍めし―簡単!早い!おいしい!

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調味 よこすか海軍カレー180g×2個

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